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爛れる月面
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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1.違う空を見ている-12

「……っていうか、光本さん? 多分さぁ、お隣どうし何故か都合よくお互いの部屋が向かい合わせで、夜とかベランダ越しに話したり、屋根づたいに会ったり、そーいうの想像してるでしょ?」
「はい、まさに」
「向こうは三階建ての豪邸。こっちは安っすいアパートの一階。そんなうまくいくわけないじゃん。幼馴染ってだけでいろんな人にきかれて、今まで散々言ってきたわ、コレ」
「確かに、笹倉の家はデカかった。……外交官だっけ? オヤジさん」
 早田が頷きながら言った。
「そうだよ」
「わっ、長谷さん、玉の輿じゃないですか!」
「……別に、徹……」しまった、と普段の呼び名を言ってしまったことを後悔したが、もう遅かった。「……、徹のお父さんがスゴイだけで、徹はただの貧乏研究員だよ」
「今、遠距離ってどこにいんの?」
「栃木。すっごい山の方のアパートに住んでる。見渡す限り田んぼだった」
 早田の問いに答えた紅美子は、徹の名を皆の前で呼んでしまった後悔を打ち消そうと給仕が新しく注いだワインを喉に通した。
「ま、研究員ってなんか笹倉に合ってるよ。会いに行ってやってるんだろ?」
「……昨日まで行ってたんですよねぇ? ウフフ……」
 何故か紗友美が逢瀬を思い出したようにウットリとなった。
「行ってたよ」
「あーもう、それ思うと、私がジーンとしちゃうんですよねぇ。長谷さんが愛するフィアンセと会ってるとこ想像すると」
「私で変なこと想像しないで」
 紅美子が紗友美を制しても、紗友美は斜め上方を見やりながら合わせた手を頬に当てて想像を巡らせていた。
「だってぇ……。『来週から遠距離で面倒だ』とか、そーでもないこと言ってたクセに、次の週会ったら左の薬指にリングしてんだもん。やっべぇ、長谷さん超かわいー!、って思いましたもん」
 何でそんな言い方するのかな、と紅美子は頭を抱えた。これは単なる魔除けだ。
「長谷さん、会社では冷たく澄ましてて、他の人に恐れられてるんですけどぉ……」
 恐れられてる? 私?
 ワインで舌足らずになりながら言っていいことと悪いことの区別がつかなくなってきている紗友美は、そのまま、
「……きっと、長谷さん。彼氏の前では可愛い子猫になるんだぁ……。愛してるニャン、とか言ってるんだよねぇ、って想像してます」
 誇大な妄想を繰り広げた。
「やめて。変なキャラ作らないで」
「……あ、紗友美ちゃん、それきっと違うよ」
 今でもスポーツをして鍛えているのか、一番体躯の良い早田が、皿に残っていた料理をついばみながら、「中学の時はそんなんじゃなかった。高校のときバッタリ二人に会った時も変わってなかった。……たぶん、今も?」
 早田がニヤニヤしながら紅美子を伺ってきた。
「なんだ、そのイヤラしい顔」
 吐き捨てるように睨んだ紅美子にお構いなしに早田が続ける。
「コイツ、すっげー、モテたんだ。中二、中三と同じクラスだったけど、一ヶ月に一回は告られてたね。みんな玉砕してた」
 また昔話を始めた早田を睨んだまま、もう紗友美の前だが言ってやろう、と今回の飲み会の主旨も忘れて紅美子はグラスを持ったままの指をさした。
「あんたも告った」
「そう。俺も」だが、早田は全く堪えた様子はなく即答した。「俺ってトップバッターだった?」
「……憶えてない」第一撃を難なく躱されて、「でもほぼ初めて喋ったのに何日後かに付き合いたいって言われたんだけど?」
「うん。紗友美ちゃん、俺もモテたんだ」と早田は紗友美を向いて臆面もなく言うと、「で、男どころか、俺以上に女にすっげぇモテてる子……イコール長谷がいてね。じゃ、モテモテの俺が落としてやろう、って思ってたんだ。中二でコイツが前の席に座ることになったから、三日目くらいかなぁ、帰ろうとするところ呼び止めて、もしイヤじゃなかったら付き合おうぜ、って言おうとしたの」
「……言おうとした?」
 紗友美が早田の表現に首を傾げた。
「うん。もしイヤじゃなかったら付き合おうぜ、って言おうとして、付き合うの『つ』のところで、『イヤ。本能的に無理』って言いやがったんだぜ? コイツ」
「うわ」
 紗友美は猫をかぶっていたはずが、酔ってしまって早田の前で脱ぎ捨て始めていた。紅美子は、ああ、早田は頭いいバカだから攻撃は効かない、と思い、
「だって、無理だもん」
 とだけ言った。
「にしてもさー。生理的に無理、は聞いたことあるけど、本能的に無理、って何だよ、って思わない?」
「たしかにー」
 早田と紗友美の笑い声を聞きながら、頬杖をついてワインを飲む。コイツら、いつまで私を出しに使うんだ。とっとと連絡先交換でもしろよ、と中学生時代の暴露をされていると喉が絡んで、それをワインで押し流す。


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