投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

明星ロマン
【その他 官能小説】

明星ロマンの最初へ 明星ロマン 6 明星ロマン 8 明星ロマンの最後へ

明星ロマン-7

「あのう……」

 上目遣いで彼女が寄ってくる。室井は腰が抜けそうになった。

「な、何でしょう?」

「とりあえず、何か飲みませんか?」

「そうですね」

と室井は照れ笑いを返す。

 居心地がいいとはとても言えない。
 室井はアイスコーヒーを、そして彼女はミネラルウォーターを注文した。
 かたちだけの乾杯をした後、なぜか互いの名前を明かすことになった。ムードに従ったというべきか。
 彼女は久野志織(くのしおり)といった。どういう漢字を書くのかということまでわざわざ説明してくれた。
 次いで室井も名乗ったが、彼女の反応は薄かった。
 というより、塞ぎ込んでしまったようにも見える。

「久野さん?」

 室井は声をかけ、ちょっとちょっと、という具合に彼女の肩を叩いた。そこから柔軟剤の甘い香りが漂ってくる。

「気分でも悪いんですか?」

 室井の呼びかけにも反応がない彼女。明らかに顔色が優れない。

「あの人が……」

 ようやく彼女は呻くように言い、

「彼が追ってくるような気がして、あたし、これからどうしたらいいのか……」

 わからない、というふうに首を振った。目には絶望が宿っている。
 室井はとりあえず別の話題を引っ張り出してみた。

「タクシードライバーの仕事っていうのは、それこそいろんなお客さんを乗せるわけですよ」

 なるべく明るくしゃべってみた。

「たとえば、ぐでんぐでんに酔っ払った人だとか、水商売の女の子とか、外国人の観光客なんかもいたりしてね。まあ、自分は英語なんてさっぱりなんですが」

 大して実のない話をしているなと室井は思ったが、彼女のほうはそうでもないようだ。

「だったら、芸能人とかも乗せたりするんでしょう?」

と興味津々に微笑みかけてくる。

 室井は得意満面でうなずいた。そしてここぞとばかりに有名な役者やスポーツ選手の名前を挙げた。
 しばし花が咲き、会話がはずむ。久野志織の表情にも血色が戻ったように見える。
 やっぱり綺麗なお嬢さんだなあと室井はあらためて思った。

「室井さんは優しいんですね」

「そんな、いやあ、参ったな」

「奥さんが羨ましいな」

「いやいや、なんとなく連れ添っているだけですよ」

 リップサービスで迫ってくる彼女から距離を置く室井。このままではほんとうに間違いを起こしかねない。

 そこへ、

「ねえ」

と久野志織が距離を詰めてくる。

「これからどうします?」

 作為を含んだ彼女の眼差しが、室井の青春を呼び覚まそうとしている。しかし彼は言った。

「家に帰らないと、かみさんを怒らせたら適いません」

 そうしないと家庭内が炎上してしまうのだ。

「あたしと、したくないんですか?」

 彼女から核心を小突かれ、何のことかなあ、と室井はとぼける。
 そしてまじまじと見つめ合った後、久野志織の唇が、セックス、というふうに動いた。


明星ロマンの最初へ 明星ロマン 6 明星ロマン 8 明星ロマンの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前