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バルディス魔淫伝
【ファンタジー 官能小説】

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拾われて飼われました 前編-13

「さっきまで、生け贄にされそうになってたっていうのに、なんかすげぇな……」
興奮している女学者メリル・ストリを見つめて、蛙人コル=スーが言った。
「無人島?」
「そうですよ。百年前にルード国のマクベール探検隊が見つけた島です。古代民の遺跡や洞窟の壁画を見つけて、我々の祖先は海を渡ってきた説の論文を発表していますから」
セリアー二ャとガーヴィはまた知らない国の名が出てきたり、古代民という話に首をかしげている。
メリル・ストリの調査隊は砂漠の遺跡を発掘するために砂漠を横断中に突然の砂嵐に巻き込まれた。
コル=スーの遭遇した妖魅が島の民を全滅させたあとに無人島になったとして、時が流れて壁画や街の廃墟を見つけた者がいた。そのさらに百年後の世界からメリル・ストリは島にやって来たことになる。
「それは島を調査して蛙人やリザードマンが絶滅したあと、我々の祖先が文明を築き、海を渡り大陸にいた先住民と国を作ったという学説でしたが、我々の祖先は海を渡らず大陸を発祥の地とする学説が主流です。私は今は砂漠となった地域でリザードマンが文明を築いていて、それを海を渡った我々の祖先が受け継いだという仮説を立証するために、私は遺跡調査をしていたのです」
セリアー二ャはメリル・ストリの話をほどほどでさえぎると「あなたはどうやってこの島に来たの?」と質問した。
「わかりません。気がついたら私は砂浜に倒れていました。街が見えたので歩いて行ったら、いきなり捕らえられたので」
ガーヴィとセリアー二ャはメリル・ストリにディルバスという者の支配する世界へ、別の世界から来たと説明した。
コル=スーは洞窟の奥にある世界へ、砕けた石板の破片を仲間とふれたことでやって来たという話をした。
今度はメリル・ストリのほうが意味がわからずに、首をかしげて困惑した。
魔道の知識がない。
リザードマンの海賊ヤン・キース、島の人々、蛙人コル=スー、黄金の瞳の種族の末裔メリル・ストリ、全員に共通しているのはそのことである。
蛙人コル=スーのいた時代にはディルバスはおらず、またメリル・ストリのいた時代にもディルバスは存在していなかった。
「メリル・ストリ。ディルバスという名の皇帝を聞いたことはないか?」
「皇帝でディルバスという名を記された文献はありませんね。住んでいた地域が砂漠化が進み、海を渡ったり砂漠を横断して大陸の東へ移動したあとの時代の文献はあるのですが、それ以前の文献は残されていないのです。だから、西の大陸の時代と呼ばれる時期についてはよくわかっていないのです」
ガーヴィにメリル・ストリはそう答えたのである。
「すると、私は過去の時代にいるということになるわけですか。信じられない……」
メリル・ストリはセリアー二ャにそう言った。
「さやかは蜂に襲われて餌にされかかっていた。それをガーヴィが救助した。その影響で、ディルバスの世界に変化が起きたのよ」
さやかにセリアー二ャが話した。
「ディルバスは闇の眷族になり、不老不死の皇帝になることで世界の運命の流れに負荷をかけていた。わかりやすくいえば、ディルバスのかわりに命を落とす者が必要だったということだ」
島の酋長の娘のラーダとスーラ、蛙人コル=スー、考古学者メリル・ストリにガーヴィが説明した。
「そのディルバスって奴のためにおいらの仲間たちが死んだってことですかい?」
「そうだ」
「だから私たちの母も生け贄に?」
「そうだ」
蛙人コル=スーと姉妹が顔を見合わせた。
「この島に閉じ込められた船乗りのヤン・キースや奴隷にされたリザードマンの娘たち、この島に暮らしている民たち、メリル・ストリ、そして俺が探しているどこかに消えた人間族の娘もそうだ」
「ディルバス自身も生け贄なのよ、死ぬべきではないリザードマンの幼い女王の寿命に手を下して、帝位を簒奪したことで、きっと禁忌を犯してしまったのね」
「禁忌?」
メリル・ストリがセリアー二ャに質問した。
「私とガーヴィが一緒の船で航海していたリザードマンたちは、海を信仰していたわ。でもディルバスが殺害したリザードマンの帝国の女王が何を信仰していたかはわからない。もしも、いにしえの神々を信仰していたなら、ディルバスは呪われたのかもしれないわ」
「遺跡を発掘していて遺体とか埋葬品にふれた調査員たちが不慮の事故とかで亡くなるとか、呪いの噂はあるけど迷信でしょう?」
メリル・ストリは考古学者で、発掘する遺跡が古代人の権力者の墳墓であることは日常茶飯事である。だから、呪いに対しては懐疑的で迷信と決めつけていた。
「いにしえの神、風に乗りて歩む者イタカに呪われた者はさらわれてしまい、数ヶ月間、見知らぬ土地に連れ回されて、しまいには地上に投げ落とされることで地上に戻される、という伝説が私やガーヴィのいた世界にはあったわ」
セリアー二ャはそう言った。
「砂嵐に巻き込まれて気がついたら見知らぬ島の海岸にいた。まるでイタカにさらわれた話みたいね」
「いにしえの神々?」
「ディルバスの生き霊か亡霊かはわからないが酋長に憑依して、黒猫のことをウルタールの猫人族と奴は呼んでいたな、たしか……」
ガーヴィがそう言った。
「憑依?」
メリル・ストリが困惑した。
「私は見たものしか信じません」
「おいらもそうだ」
コル=スーはメリル・ストリに言った。
「あんたを縛って運んできたこの島の連中だってそうだと思うぜ。島から出られなかったり、子供が死に絶えたりしてわかったことから考えて、生け贄を捧げることにしたんだろうな」
蛙人コル=スーは魔道がない世界から来た。
しかし生き残るための直感は鋭い。
コル=スーは危険や死を、身近に感じながら直感をたよりに生きてきたのだ。


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