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僕をソノ気にさせる
【教師 官能小説】

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僕をソノ気にさせる-31

 背後から裏切りの共犯者の声が聞こえて驚いた。振り返るとハーフパンツのジャージ姿の優也が立っている。
「……ん? どしたの?」
「眠れなくて。……智樹兄ちゃんと、俊彦おじさん……、イビキが……」
 優也が言うと、杏奈は笑った。その笑顔に安心したように、優也が杏奈の元に来ようと歩を進めてくる。
「……あっ、だめっ! 近づかないでっ」
「えっ」
 急に手のひらを向けてストップをかけた杏奈に目を見開き、「どうして?」
「……私、今。スッピンなの」
 違う。今、優也に近づかれたら、空虚に渇いている心を優也で埋めそうになってしまうからだ。今すぐ少年の匂いに触れたかった。だが恋人との別れの際にあり、保護者に感謝の気持ちを言われたばかりなのに、優也に寄り添うなどあまりにも疚しい。
「うん……」
 優也は背を向けて顔を隠した杏奈からの距離を悲しく思い、所在なげに立っていた。風に舞う木の葉の行方に導かれて、ふと、デッキの袖にある階段を見つけた。さっきまでバーベキューをやっていた広場に繋がる。優也はそこに足を向け、一段だけ降りたところで振り返り、
「先生」
 と呼んだ。
(ヤバいのに……)
 月の頼りない明かりの中でも、優也の無邪心の瞳が反射して光っていた。死角に降りたら、優也は唇を求めてくるだろう。キスを迫る優也の黒目の大きなあの瞳は、きっと自分に対する手放しの恋心に澄んでいるだろう。想像すると背をゾクリとした擽ったさが走った。
 杏奈は誘惑に負けて優也のほうへ足を進めていた。この先に何が待っているか充分分かっていながら、かつ自制したい思いがありながら、予感が本当に間違いではないのか、確かめたい思いには克つことができなかった。
「暗いよ」
 下段から優也が手を差し伸ばしてくる。杏奈が手を置くと、ギュッと握って優しく引かれた。
 優也は下段から杏奈を見上げていた。杏奈はブルーとホワイトのグラデーションがかったマキシ丈のワンピースを摘んで裾を少し引き上げ、履きなれない雪駄の足元に注意して一段一段ゆっくり降りている。星空を背負っている杏奈の表情はシルエットとなってよく見えなかった。木製の階段の最後はコンクリートで固められており、地面までにはもう一段、かなり高い段差があった。杏奈からは暗みでよく見えない。
「飛んでいいよ。支えるから」
「……本当?」
「うん、ちゃんと受け止める」
「って言ってて、一緒になって転んだら怒るよ」
 何だこのお姫様のようなシチュエーションは。杏奈は自嘲しながら、胸を開いて構えている優也の影を見た。自分に恋をしている男の胸に飛び込む。世の中の女の子がそうそう遭遇できない憧れの状況だろう。何の後ろ暗さもなければ、たとえ優也が衝撃に耐え切れず転んで倒れたとしても、全身を預けてここから飛び出したに違いない。
 杏奈は大きく一歩を踏み出した。思ったより段差は高く、挫きそうになりつつ優也の前に足をついて降り立った。肩につかまったが膝が少し折れて、優也よりも頭の位置が低くなる。見上げると優也がもう顔を近づけてきていた。予想通りの抗いがたい瞳が目前から迫ってきて、顔を背けることができなかった。唇が触れた瞬間、背中がぶるっと震えた。
「……いきなり、するんだね」
「よけなかったよ?」
「よける暇なかった……」
 肩に置いた手を助けに膝を伸ばすと、優也の顔が悲しみに曇っていた。
「よけるつもりだったの?」
(そんな顔しないで)
 降り立った場所は、デッキテラスの土台の下、手すりから身を乗り出して覗きこまなければ見えない場所だ。コテージの屋根についたライトの光も届かず、足場が作る影の中は一層暗い。杏奈は暗闇の中、普段よりも青ざめて見える優也の頬に手を添えて、唇を啄んだ。また背中が震える。同じ暗がりでも、映画館の中で不意に受けた時よりも明らかに感触が変わっている。
「先生……」
 顔を離すと優也が囁いてきた。「お化粧してなくてもキレイだね」
「こら。見るなって言ったでしょ」
 優也の言葉にさっと額を肩に押し当て、照れて困った潜め声で顔を伏せる。優也の肩からは男の匂いはしない。顔を近づけてくる時に必ず仄かに漂ってくる、清涼な少年の香りが、ここまで身を寄せると濃度を増して鼻腔を強く惑わせてきた。
「別にお化粧しててもしてなくても、キレイだよ」
 やめて、ホメたらダメ。杏奈は優也の香りに包まれながら、耳元に伝わってくる囁きを、次に来る言葉を恐れ、しかし期待に満ちて聞いていた。「好きだもん……、全部」
 瞬間、渇いていた杏奈の虚洞に濁流が流れ込んできた。杏奈はもう一方の手も優也の肩に乗せると、もう一度唇を触れさせていた。今度はすぐには離れず、柔らかい優也の唇の上下をはみ、緊張に身を強張らせていた優也の力が抜けてくると、舌をその間に差し入れていた。唾液が溢れてくる。今まで鳴らしてこなかったキスの音を立てて、差し出された優也の舌先を舐め上げていた。


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