投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

愛しているから
【青春 恋愛小説】

愛しているからの最初へ 愛しているから 29 愛しているから 31 愛しているからの最後へ

彼女が水着に着替えたら-3

またしても襲ってくる劣等感にへこんでいた、その時。


「……倫平」


ふと聞き慣れた声に、ガバッと効果音がつきそうなくらいの勢いで顔を上げる俺。


そこには、穏やかに微笑んでいる沙織の姿があった。


「沙……織」


何年かぶりに再会できたかのように声を震わせた俺は、ちょっと泣きそうになっていたかもしれない。


でも、それほど、沙織の姿が恋しくてたまらなかった。


卑屈になっていた俺の心を、この笑顔が癒していくのがわかる。


「……さっき、ごめんね」


「え?」


「ほら、車。あたし、助手席に……」


もじもじしながらこちらを窺うその申し訳なさそうな顔で、さっきの嫉妬で歯ぎしりしていた自分を思い出す。


正直、ハッキリ断らなかった沙織にイラついたりもしたけれど、沙織が俺に微笑んでくれただけで、それすらどうでもよくなっていた。


卑屈さじゃ誰にも負けない俺だけど、たった一つ、沙織がこうしてそばにいてくれるだけで、俺の心のトゲを取り除いてくれるんだ。


俺って、単純。


「いいよ、気にしてないから」


俺の言葉に、沙織は安堵したのか、ふわっと眉間の力が抜けたように見えた。


「倫平……あのね」


「ん?」


彼女を見れば、心なしか頬をピンクに染め、大きな瞳はあっちを見たり、こっちを見たりと落ち着かない様子。


うーん、可愛い!


そんな沙織の様子に萌えつつ、彼女の言葉を待っていたら。


「海に行ったら、一緒に遊ぼうね」


それだけの他愛のない一言を残し、沙織は踵を返した。


「…………」


頭の中に、ポンと花が咲く。


端から見れば、なんてことのない会話だろう。


みんなで海水浴場に行くのだから、一緒に遊ぶのは当然なわけで。


だけど、俺にとって沙織の言葉は「愛してる」と言われるくらい(言われたことないけど)、幸せな気持ちにしてくれた。


さっきの沙織のはにかんだ笑顔。軽やかな足取りに合わせて揺れる、ポニーテール。


それだけで俺はだらしなく目尻を下げて、彼女の後ろ姿を見送るのだった。





愛しているからの最初へ 愛しているから 29 愛しているから 31 愛しているからの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前