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THE 変人
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とんだ大物-6

 奇妙な出会いだ。車に乗り暖房を全開にして温まりながらもガタガタ震えている助手席の女性を見ながらそう思った。まさか人間を釣り上げるだなんて思ってもいなかった。海斗自身も寒い。しばらく温まっていた。
 「おまえ、何で海に浮いてたんだ?」
ズバッと聞く海斗。女性もスッと答えた。
 「崖の上から飛び降りたの。自殺しようと思って。」
重い事をサラッと言う女性が信じられなかった。女性は言葉を続ける。
 「死ねたと思った。落ちてる途中で気絶して、やっと死ねたかと思った。」
飛び降りたであろう崖を見つめながらそう言った。
 「あそこから飛び降りたの?」
 「うん。」
とんでもない高さだ。体が無事だったのが不思議なくらいだ。見た所、大したダメージは見受けられない。
 「目を覚ましてあなたの顔が映った時、がっかりした。死ねてなかったから。」
 「そりゃ悪かったな。」
 「あ、ごめんなさい。あなたが悪い訳じゃないの。どうして神様は私を死なせてくれないのか、本当に神様を恨んだわ。」
 「自殺は初めてじゃない、と?」
女性は自分の左手首を見せた。
 「リストカット…?」
女性の左手首に何本かのリストカット跡があった。生々しい傷に海斗は絶句した。
 「何度も手首を切って、でも死ねなくて。でもね、切る瞬間、物凄く怖いの。私は知らず知らずのうちに死なない程度に切ってるんじゃないかって自分に疑問を持ったの。本当に死ぬつもりならもっと深い傷をつければいいんだもんね。でも出来なかった。だから私は違う方法を選んだの。そしてあの崖から飛び降りる気持ちを固めて、飛んだの。でも死ねなかった。どうしたら死ねるんだろう。」
切実に語る女性。そういう湿った話は苦手な海斗。
 「不死身なんじゃん??」
ふざけて言った。しかし女性は怒りもせずに淡々と答えた。
 「そんなんじゃないわよ。私は不死身と言えるほど強い人間じゃないし。人生を逃げようとしてる私を許してくれないだけなのかも知れない…。」
 (マジメか!?)
人の悩みを真剣に聞くのが大の苦手だ。人の心を揺さぶる言葉など死んでも言いたくない。
 「取り敢えず、親のとことかに帰ったら?」
そう言うと急に顔を向けてきた。
 「嫌!死んでも嫌!!」
予想外の反応に少し驚く。
 「おまえ、自殺しようとしたのに死んでも嫌とか、訳分かんねぇなぁ?」
頭をかきながら苦笑いする。
 「それもそうだね。」
初めて女性がクスっと笑った。その笑顔が海斗の下がった体温を少し戻してくれたような気がした。
 「おまえは一回死んだんだよ、きっと。」
 「えっ?」
不思議そうな顔で海斗を見つめた。
 「一回死んで、目的は達成したんだよ。神様はおまえの願いを叶えてくれたんだ。そして生き返らせた。新しい命をおまえに与えたのさ。一からやり直して今度こそ満足できる人生を歩めってさ。」
女性をはキョトンとしていた。しかし海斗の言葉が新鮮に胸に響いた。そういう思考を女性は持ち合わせていないからだ。
 「どうせなら体も新しいのにしてくれれば良かったのに。」
照れ隠しで少しひねくれてみたのかも知れない。
 「贅沢言うんじゃねぇよ。そんないい容姿してて。ブスでデブに生まれ変わるよりよっぽどいいだろうが。」
 「あ、私の事、可愛いって思ってる??抱きたい??」
急に明るくなった。
 「な、何なんだよいきなり!」
 「照れないでよ。あ、やっぱ可愛いって思ってるんだ!」
 「アホか!」
煙草を吸い始めた。心なしか吸い方が慌ただしい。そっぽを向く海斗がおかしくなる。
 「ねぇ、これから家に泊めてよ。」
 「ゴホッ!えっ!?」
いきなりとんでもない事を言ってくる女性がますます分からなくなるのであった。


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