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タチヤーナ
【初恋 恋愛小説】

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タチヤーナ 少女はいかにも癒された-1

小学五年生のタチヤーナは、こげ茶色の長い髪に灰色の目、えくぼのある愛くるしい顔をした活発なスポーツ少女だった。明るい性格、それは文字通り人生の光で、独身の中年である文山の心はタチヤーナに照らされた。また、猫のように敏捷なタチヤーナの体にも文山は憧れたのだった。
 しかしタチヤーナがまったく天真爛漫かと言えばそうでもなく、じっと見つめるときの文山の下心をよく知っているというふうな目でにっこりほほえむことがあった。そういうときの瞳にはぎらぎらした色が映る。文山はすぐに気持ちをそらせてみるのだが、タチヤーナが変わらず自分を嫌っていないと分かると、大きく安心して、ちらちらとタチヤーナの体のあちこちにまた目をやるのだった。
 文山は子供のとき神経症を患っていた。あることを考えるのが止められなかった。起きてから眠るまで、一日中そのことが気になって、それを解決しないではいられなかった。そしてそのことが済んだら、また次のことが気になり始める。これが二十歳(はたち)頃まで続き、文山を苦しめた。神経症が治るものか治らないものか文山は、今でもときどき気付くことのある心の不安定さを思うと分からないが、人が同じような傾向を持っている場合、何も言わなくても文山には察することができた。そしてタチヤーナも神経症らしかった。
 子供のタチヤーナが文山と同じ感覚を持っているとは考えられない。それでも、文山には自分の何かが分かっている、そうタチヤーナにも感じたのだろう。いつかは人に隠していることを表したいという無意識の欲求から、タチヤーナは文山に急接近してきた。
「あしたおうちに行っていい? あたし一人だよ」
小学生らしく朗らかに、大きな声で聞いた。喜びを抑えて文山が承諾すると、タチヤーナはにっこりとほほえんだ。
 春物のジャンパーを着てタチヤーナはうちに来た。非常に短いオレンジ色のスカートが、タチヤーナの長い脚をひときわ長く見せていた。呼び鈴が鳴ってドアを開けたとき、文山はタチヤーナの裸のももに視線が釘付けになった。タチヤーナは鼻を少し突き出すように顔を上へ向けて愛らしく笑った。そしてぴょんと跳んでスカートを翻らせて見せた。
 うすみどりのジャンパーの下は、レモン色のタンクトップ一枚きりだった。いつも薄着なので寒くないと言うのは本当らしかった。乳首が棘のようにくっきりとしていた。髪を撫でたときに上げた腕の、白い腋の下を間近に見て文山は眩暈を感じた。
ふうと声を出しながら溜息をつき、タチヤーナは文山と並んですわったベッドの上でばさりと横になった。文山は自分の視線をかわされたと思った。しかしタチヤーナはいつものように嫌がるそぶりはせず、気付かない振りどころか誘うように、あたし寝るの大好きと言って目を閉じ、膝を立てて足をベッドに乗せた。スカートの下からタチヤーナの白い下着が覗いた。それとほとんど同時に、その白に黄ばんだところを見つけ、文山は我を忘れるほど緊張した。ふとタチヤーナの顔に目をやると、タチヤーナは文山のほうをまっすぐに見つめていた。文山は青くなった。却ってタチヤーナが驚いた表情をした。二人の視線がもう一度しっかりと合ったとき、あのねと言ってタチヤーナは下着をするりと脱いでしまった。そして脚を上げたまま、女のパンツはどうしても汚れるのだと言った。白い肌にできたばかりの傷があるように文山には見えた。                                                   
タチヤーナが何を期待してきたものか文山は知らない。タチヤーナの全部が好きだと文山は言った。タチヤーナは満足そうに目を閉じていた。
朗らかで明るく、活発なタチヤーナの陰、春色の衣服を好む薄着の少女の陰は、自分を味わうことだった。タチヤーナにはそれが止められなかった。毎日風呂場に一時間も籠っていた。罪の意識に苦しみながら、一人の喜びを何かが求め、抑えられずに一人悩んでいた。今日、その何かが文山に乗り移っていった。タチヤーナは文山に求められて、今までと同じ喜びを得られるようになった。タチヤーナの気は楽になり、体いっぱい文山に任せてみた。文山のあたたかさと重みとが、分かってくれているという安心を与え、これほど求められている自分の価値をタチヤーナは心に新しく感じた。  
さてこの二人は、それから五年間、もっぱら体のつながりによって一種の夫婦であった。心は大人と子供とで、差の埋まる時はなかったが、心まで求めても幸せだったのは、歳が違ってこそであったろう。五年の月日を共にして、二人はもはや一緒にいる必要を思わなくなった。そしてタチヤーナが中学を卒業するとき、二人は別れたのだった。
タチヤーナの神経症は治っていた。今は自信があった。入った高校でスポーツ選手として力を伸ばしている。男子の人気も高かった。文山は会社を辞めて失業中だった。しかし人生の光を内に得て、生き生きとしていた。タチヤーナと同い年の高校生と知り合い、交際を始めた。おとなしくて女っぽいこの金髪の子の乳房が上下して揺れるのを見ながら、重い大人の人生をその体に予感して、文山はタチヤーナとの日々をよく思い起こした。しかしまた文山は、高校生の体を嗅ぐたびに、先へ進む気持ちを新たにした。高校生はすぐ妊娠した。文山は、全く新しい人生が前方に開けているのをようやく実感して、二人の人生設計に勇んで着手し始めた。
その後もタチヤーナから文山のもとへ、年賀状は毎年欠かすことなく来つづけた。


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