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ちちろむし、恋の道行
【歴史物 官能小説】

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その2 ちちろのむしと別れけり-5

「お鈴、今、不思議な夢を見たんだ。弁天様が現れて、おれの願いを叶えてくれたんだ」

「おまえ様、……私も同じ夢を見ました。驚いたことに、三年も寿命が延び、なおかつ本当の人間になれる と……」

「そ、そうだ。確かにおっしゃられた。人間に……」瑚琳坊がお鈴の手を取った。「じつに有り難い。じつに 有り難い……」

「本当に……」

二人は手を取り合っていたが、瑚琳坊が、おや?という顔をし、そして、有明行灯を手元に引き寄せた。

「そういえば、おまえ、何だか血色がよくなったような……」

透き通るような蒼白い肌に、うっすらと赤みがさし、愛らしさに一層磨きがかかった感じがした。

「私も身体の中に、血潮の温かさを感じます」

「やっぱりあれは、正夢だったんだ」

「……こんな嬉しいことはございません」

「お鈴……」

二人は互いを掻き抱き、喜びを噛みしめあった。





 晴れ晴れとした表情で瑚琳坊とお鈴は家路についていた。これからの生活に思いを馳せ、もっと広い教場を 手に入れて、もっと多くの手習い子を集め、たくさん稼いでお鈴に綺麗な着物をできるだけ買ってやろうと瑚琳坊は意気込んでいた。お鈴 は何も云わず、しとやかに彼のななめ後ろについて歩いていたが、その顔には溢れる幸福感が滲み出ていた。

「お鈴、路銀も残り少ないが、おまえに簪の一つでも買ってやろうか?」

「そんな、もったいないです。これからのために、とっておいて下さいまし」

「いや、遠慮することはねえぜ」

「いいえ、おまえ様こそ、袴でもお求め下さいな」

「……しょうがないな。じゃあ、あそこの富札屋で富くじでも買っていくか。良いことは続くっていうしな」

瑚琳坊は奮発して三枚、富くじを買い求めた。

「このうちのどれかが一等になりゃあ百五十両だぜ。おまえにどんな贅沢をさせてあげられるか……」

「おまえ様、またそんなことを……。地道に働き、堅実に生きないと……」

「分かってるよ。……けっこうおまえは口うるさいんだな」

「おまえ様!」

お鈴が片手を上げてぶつまねをした。

「へへへ、悪い悪い。……おまえは怒っても可愛いなあ。よーし、今夜は帰ったら思いっ切り抱いてやるぜ。 本当の人間になったおまえをじっくり味わって、このみみず腫れの魔羅でひいひい泣かせて……」

言いかけて、瑚琳坊の足が止まった。彼等の行く手から何だか様子のおかしい女がゆっくりと歩いてきた。


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