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ちちろむし、恋の道行
【歴史物 官能小説】

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その2 ちちろのむしと別れけり-18

 そうして半年以上が経った頃、瑚琳坊は乞食の姿に身をやつし、非人小屋で他の乞食や卑俗な芸人どもと一 緒に雨露をしのいでいた。

「おい、瑚琳坊、二文貸してくんねえか?」

瑚琳坊と同類の坊主くずれの老いぼれが、垢じみた法衣の破れに手を突っ込み、蚤に食われた跡をぼりぼり掻 きながら笑いかけた。

「てやんでい、てめえに貸して返ってきたためしがあるかよ。あっちへいきな!」

埃っぽい筵に寝転びながら足を上げて老いぼれを追い払う。入れ替わりに、頬に切り傷のある若いやくざ者が やってきて小汚い銭入れをちらつかせた。

「へっへへー、二倫の兄い、稼ぎましたぜ」

「おっ、でかした。丁半か?」

「ええ。松平備中の下屋敷の中間部屋で、ひさかたぶりに稼がせてもらいましたよ。どうです兄い、これか ら、ちょいと一杯」

「おう、そりゃあいいな。このところからっけつなんで、酒の匂いが恋しいぜ」

「……わしも連れていってくれんかのう?」

「るっせえ、爺い! 汚ねえ手で触るんじゃねえ!」

やくざ者は老いぼれを蹴飛ばし、瑚琳坊が倒れ込んだそいつの身体を踏み越えて戸口の掛け筵を片手で跳ね上 げた。

 夏も終わりの夕まぐれ、虫たちの集(すだ)く土手をぶらぶらと歩いて近くの小さな居酒屋に早くからしけ こむと、瑚琳坊とやくざ者は畳敷きの中央に陣取り、安酒を酌み交わしながら下卑た笑い声を盛んに上げていた。

「それにしても、おめえの頬の傷跡は凄まじいな。侍との斬り合いだったって話だが……」

「へへっ、おいらの傷は頬に一つだが、相手には、肩と、どてっ腹に深手を負わせてやったぜ。あの喧嘩、お いらの勝ちだね」

やくざ者は胸を張って、縁の欠けた猪口(ちょく)を一気に呷った。

「しかし、さすがのおいらも二倫の兄いには敵わねえや。兄いの魔羅の十文字の傷跡、ありゃあ大したもんで すねえ。一度湯屋で見ましたが、どうやって付いたんで?」

「うん? 魔羅の傷か? ……長いほうは女の爪跡よ」

「うわあっ、この、女泣かせ! で、短い横の傷跡は?」

「……こっちのほうは、いくらおめえでも教えられねえ。……だがな、この十文字の魔羅で夜鷹でも抱いたひ にゃあ、相手は商売も忘れてよがり狂うってもんよ」

「ひえーーっ、やっぱり兄いには敵わねえ!」

二人は酔いにまかせて大はしゃぎだった。

 畳の上に徳利が十本以上転がる頃になると、二人の酩酊ぶりは一層ひどくなった。やかましさに他の客が眉 をひそめ、酒を運ぶ小女(こおんな)が瑚琳坊に尻を撫でられて叫び声を上げたりした。

 するとそこへ、一人の小童(こわっぱ)が興奮した面もちで駆け込んで来た。居酒屋の亭主の子供らしい。

「父ちゃん、見て、見て、ちちろむしだよ」

魚を焼いていた亭主が煙に顔をしかめながら答えた。


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