オアシス-2
ここで嫌われたら一緒に居る事が出来なくなる、とか。
表面上はニコニコしていても嫌がらせをしてくる、とか。
その嫌がらせは陰険で精神的にくるのが多い、とか。
やり返すには同じく陰険にコソコソと、しかし確実に精神ダメージを与える技を駆使して……などと、『鬼嫁と鬼姑』という本を片手に教えてくれたのだ。
しかし、パルは嘘のつけない裏表の無い性格なので、コソコソとか絶対に無理。
だから、せめて嫌われないようにパルが余計な事を口走りそうになったら止めてもらおうと思っていたのに……。
「う〜…後、どれくらいで来るんだろ?」
それまでにテオが回復してくれれば良いが……。
ドォーン
ソワソワとしていたら来訪者を伝える大砲が鳴った。
クラスタ要塞はだだっ広いので、大砲で色んな事を伝える。
時刻から敵襲まで様々な種類があり、種類によって音が違うのだ。
これでどこに居ても要塞の様子や時間がわかる。
そして、今の音は来客の合図で、本日の来客予定はテオの両親だけ。
「あう……」
パルはがっくりと項垂れ、もそもそと服を着た。
とりあえず、第一印象はマルを貰おうと、鏡の前に立ち、キチンと服と髪を整えて小さくガッツポーズ。
「ん!頑張るっ!」
テオを最期まで見送り、美味しく頂く為には一緒にいなければならない。
パルにとってここは正念場だ。
テオの両親は屋上に来ていた。
サラサラの灰色の体毛が、太陽の光でキラキラと銀色に光る。
狼と獅子を合体させたような獣型の魔物は、多分テオのお父さんだ。
「チビ!カリオペ!」
テオの本当の父親であるバートン(本名はスランバートというらしい)が、嬉しそうに両手を広げて魔物に駆け寄り……。
『ガウッ!(チビじゃねぇっ!)』
「その名前で呼ぶなって言ってんでしょお?!」
めきゃ べき
魔物からのデコぴんと、魔物の背中から飛び降りた女性の膝蹴りを受けて地面に転げた。
「アハハっ相変わらず元気だね」
クラスタ当主のデレクシスは、地面に転がったバートンを助ける事なく、跨いで魔物に近づく。
「ようこそ、クラスタへ。14年ぶり」
挨拶して軽く両手を広げたデレクシスに、女性は嬉しそうに抱きついた。