ソノゴ-3
「……いらっしゃいませ……」
店主は軽く頭を下げて小さく挨拶した。
「ふうん……貴女ですの……」
その店主を上から下まで舐める様に眺め回した姫は、フンと鼻で笑う。
もう1人もクスクス笑っていた。
人を馬鹿にした様な態度に、他の客は嫌な気分になるが貴族相手に注意も出来ず傍観するしかない。
「何を……お求めですか?」
そんな中、店主は態度を変えずに姫達に問いかけた。
「いいえ?何も」
「わたくし達がこのような怪しげな店で何か求めると思ってらっしゃるの?」
「……では……?」
何しに来たのだろう?と店主は首を傾げる。
店主の様子に心底可笑しそうな笑顔を貼り付けた姫は、大きく胸を張って声を高らかに言い放った。
「両性具有の人間というモノを見に来たのですわ」
ざわりと店内がざわつく。
それは、他の客達の動揺でもあったが、それ以外にもリアルにザワザワと音がしていた。
しかし、その音はとても小さくて誰1人として気づく者はいない。
「こんな人で無い様なモノが作る薬を買うなんて……わたくしには出来ませんわ」
「全くですわ。男性が好む香りだなんて……穢らわしい」
1人の姫が紫色のクマを床に落とし、ヒールの高い靴で踏みつけた。
ザワザワ
姫達の行動を見守っていた従者が、妙な気配を感じて周りを見渡したが、何も見当たらずに小首を傾げる。
「あら、両性具有ですもの。ご自分で試しているのでしょう?」
「殿方だけにしか分からない事も分かるのですものねぇ?」
ザワザワザワザワ
小さなざわつきが徐々に大きくなり、他の客達も異様な雰囲気に不安そうな目を店内に走らせるが、姫達は全く気づかなかった。
「……そうですか……」
両性具有の人間を見に来たのならたっぷりどうぞ、と店主はゆっくりと店の奥から歩み出る。
てっきり萎縮して泣き出すとか、逃げ出すとかを予想していた姫達は、堂々とした店主の歩みから逃げるように退いた。
「ち、近寄らないで下さいます?!」
ザワザワザワザワ
「そうですわ!この化け物!!」
ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ
今度ははっきりと、全員の耳に聞こえた。
ざわつく音の正体……それは、店を覆う蔦植物が蠢く音だったのだ。