ソノゴ-1
「ねえ、ご存知?」
「何かしら?」
「ランスロット王子がお連れになった薬剤師の噂ですわ」
「ああ、南の大陸でも優秀な薬剤師なのでしょう?」
「ええ、そうなのですけど……どうやら両性具有らしいですわよ?」
「本当ですの?」
「確かな情報ですわ」
島国ファンの城の一角、王族に面会を求める人々が待機する場所がある。
身分によって建物は別れているが、面会の順番は申請内容によって身分関係なく平等に決められる。
そして、この建物はその一角の中で最も豪奢で立派な造りだった。
中に居る人々も豪奢で立派な服装で、豪奢で立派な家具を囲み、豪奢で立派な茶器とお菓子をたしなんでいたが、話の内容はとても豪奢で立派とは言い難かった。
「元々変わり者の王子ですけど……」
「そちらの方も変わり者……ですわね」
扇子で口元を隠しながら笑う姿は、きらびやかな外見だからこそ醜い姿だった。
噂話に花を咲かせているのは、噂の人物ランスロット王子を射止めようと足げに通って来る貴族の姫達。
ただ、面会の理由が「珍しいお菓子を頂いたのでご一緒にお茶を」や「貴重な宝石で王子に合うブローチを作らせたので、直接お渡ししたい」では、どうしても面会は後回しになってしまう。
王子とはいえ、ファンの一部の地域を任されているランスロットには、他にもっと大切な理由の面会申請があるのだ。
貴族との社交も大切だが、そんな下らない事にいちいち構ってはいられない。
一応、姫達もそこは分かっているので、順番待ちで2〜3日……いや、1ヶ月は待つ覚悟で来ていた。
そして、同じ様な理由で来ている他の姫を牽制しつつも仲良くなったりならなかったり……とにかく、暇なので噂話しかする事が無いのだ。
「その薬剤師はお城に仕えておりますの?」
「いいえ。どこの馬の骨か分からない様な人物ですもの……身辺を調べてからのようですわよ?」
「では、今は?」
「魔法学園に世話になっているらしいですわ」
姫達は視線を交わして軽く頷き合った。
王子との面会にはまだまだ日にちがかかりそう……それなら……。
同時にパチッと扇子を閉じた姫達は、自分達の従者を呼ぶのだった。