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エスケープ
【その他 官能小説】

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エスケープ-2

それっきり音はしなかった

私は部屋の中を見回しながら恐る恐る近づいてみる

コンクリートの床が一歩一歩足の裏から体温を奪う

戸の方からいい匂いが漂って来る

焼立てのパンの匂いだ

しゃがんで戸を開けてみるとパンの乗ったお皿と湯気を立てるミルクの注がれたマグカップがあった

(おいしそう…)

でも、怖くて手を付けることは出来なかった

戸を離れ鉄の扉に近づきノブをそっと回し、戸を押してみる

ギュコッ

鍵は掛かってなく重く錆び付いているが扉は開く

顔を少しだけ覗かせて外を見る

左右にコンクリートの壁と廊下が伸びる

明かりは等間隔で天井からぶら下がるワット数の低そうな裸電球が所々淡く照らすだけ

ここの壁も窓は無く、点々と扉があった

私はしばらく誰か来ないか部屋の中で待ってみた

時計も無い部屋でどのくらい待ったのだろう

戸の中のミルクは冷め、パンは固くなっても誰も来ない

恐る恐る廊下に出てみた

湿ってカビ臭い空気が漂う

左右を見渡しても誰も居なく、廊下の先は闇に吸い込まれている

右の方に進む

左右の壁にまばらにドアがある

開けて覗いてみると中には埃を被ったテーブルや箪笥などの家具が置かれている

裸電球に照らされる窓の無い部屋は、人が居なくなったマンションの部屋と言うより捨てられた倉庫の様だ

フシュ〜

空気の漏れるような音が聞こえた

辺りを見渡すが何も見えない

でも気のせいじゃない

その証拠にペタリ・ペタリと歩く音が聞こえる

吸い込まれるような暗闇の向こうから近づいてくる

「誰・か、いる・の?」

掠れる声で聞く

返事は無いが足音は近づいてくる

やがて闇の中から裸電球の元に、鼻から上を隠す黒い皮のマスクを被った頭と首に巻かれた黒いチューブ以外全裸の厳つい大男がノソリと姿を現す

「きぃやぁぁぁぁぁぁ!」

私は自分で喉が裂けるかと思うほどの悲鳴を上げていた


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