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Betula grossa
【ラブコメ 官能小説】

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茉莉菜の日記......-12

あれは、私がウィーンに留学する少し前の八月の終わりの事だった......
朝、起きてリビングに行くと、茉莉菜が胸を押さえてうずくまっていた。
「茉莉菜!」
私は慌てて茉莉菜の傍に駆け寄った。
「大丈夫....今、薬を飲んだから......」
「でも....救急車を呼んだほうが......」
「大袈裟だなぁ....亜梨紗は......本当に大丈夫よ......薬をのんだから......このまま安静にしていれば......」
「今日は純君とデートじゃなかったの?」
「うん....その事なんだけど....もし時間があったら....純に伝えてくれない?....電話してもつながらなくて....」
「そんな事言われても......電話がつながらないんじゃ....どうすればいいのよ......」
「直接逢いに行ってくれない....待ち合わせ場所は......」
その時、私に悪魔が囁いた。
『純君とデート出来るチャンスよ!』
と......
純君を茉莉菜から奪ってしまいたい......そんな気持ちが全くなかった....と、言えばウソになる....しかし、私はそれよりも想い出が欲しかった......純君と私だけの想い出が......例えそれが、純君にとっては私との想い出ではなくても......夏休みが終わるとすぐにウィーンに留学してしまう私には、それだけで充分だった......

私は茉莉菜から聞いた待ち合わせ場所に向かった。暫く待っていると純が来て
「ゴメン!茉莉菜!待った?」
「ううん....大丈夫....純を待っているのも楽しいから......」
「バカ......」
純は照れて真っ赤になっていた。
「行こうか?」
「うん!」
私は純の隣を歩き始めた。本当は純と手を繋ぎたかったが、私の手はピアノの練習でマメだらけで、女の子の手とは程遠いので繋げなかった。純との会話も茉莉菜を意識して話すようにした。と、言っても元々性格は似ていたのでそれほど苦労しなかった....ただ....バレてしまった時のために、『何で今まで気づかないのよ!それでも茉莉菜の彼氏なの!』っていう言い訳を用意していた......

あの日の私の告白に純は一言も話せなかった....
「ウソだろ......」
やっとの想いで絞り出した言葉に
「本当の話よ!」
私は即答した。
「そんな....ハ....ズ..は......」
「想い出したようね....純....この黒子......」
純は頷いた....純と"初めて"結ばれた夜、純はしっかりと見たはずである....右耳の下の三ツ星の黒子を......
「アタシの"初めて"をあげたのは純......あなたよ........」
「何で......そんな事を......」
「決まっているじゃないの!純の事が好きだったから......」
「........」
「想い出が欲しかったの......本当に最後のつもりだったから......二度と逢うつもりはなかったから......」
「だからって....やっていい事と悪い事があるだろ!」
「そうね....本当は....デートを終えて別れる時に打ち明けるつもりだった....ここにいるのは、茉莉菜じゃなくて亜梨紗だったって....でも....雨に濡れて....純の部屋に行って....シャワーを浴びている時....自分の気持ちを抑える事が出来なくなったの......」
「だからって......」
純はそう呟いて言葉に詰まった。暫くの間を置いて
「何で今になってそんな事言うんだよ!言わなければわからない事だろ!」
「アタシ....あの日....純に言ったよね....今日の事は誰にも言わないで!って......」
「ああ....誰にも言ってない......」
「茉莉菜にも?」
「ああ....っていうか....あの後、茉莉菜の様態が急変して、そんな雰囲気じゃなかったろ!お前は茉莉菜が苦しんでいるのに....よく平気で俺と......」


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