投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

LOVE AFFAIR
【アイドル/芸能人 官能小説】

LOVE AFFAIRの最初へ LOVE AFFAIR 18 LOVE AFFAIR 20 LOVE AFFAIRの最後へ

3.滑落-1

3.滑落



「ごめんね、今日は」
 バゼットの運転するBMWの助手席で悠花は俯いた。
「仕方ない。大きな仕事でチャンスなら、絶対いくべきさ。だろ? 明日のために準備するのもプロとして当たり前さ」
 デート中、突然キャンセルを言い出した悠花に、バゼットは特に怒っている様子はなかった。
 もともと彼自身もモデルだったが、一線から身を引いて、ハーフや外国人の男性モデルを所属させるモデル事務所を立ち上げたばかりだった。ハーフ系モデル、あるいは外国人モデルは、一口に言ってもニーズは様々だった。男性モデルの場合、日本人モデルならば、脚が長くスタイルが良くて格好よければ何とかなるもの──というほど甘い世界ではないが、とにかく「外人顔」の彼らよりはよほど融通がきく。いっぽう外国人顔のモデルは、常にマッチする仕事があるわけではなかった。白色のモデルが希望される場合もあれば、褐色モデルが起用されやすい場合もある。バゼット自身も「イメージが合わない」という理由で何度も不採用にされた経験があった。
 そのような現状がありながら、ファッション業界では日本人に比べてハーフや外国人のモデルは非常にモテる、ということになっている。しかし実情は、そのモテる相手は専ら金満女性たちで、彼女たちは彼らをホストか何かと間違えているかのように露骨にデートや体を要求し、そして彼らの多くは仕事と、金と名声のために体を売らざるをえなかった。
「ボク自身もまあ、苦労したからね、そういう意味では」
 バゼットもモデルとして舞台に立つため、そのような理不尽な要求に応えたことがある、ということを悠花の前で隠さなかった。だからこそ才能がある若いモデルたちには、きちんと実力で評価される場を作ってやりたい。事務所を立ち上げた動機を語るバゼットを、悠花は心から尊敬していた。
 或る撮影で一緒になった時、声をかけてきたバゼットを最初は「軽い男」という先入観で警戒した。しかし単に容姿が淡麗だというだけでなく、理念を確として持ち、そこに30代半ばの男の色気も相俟って、デートを重ねるうちに自然と惹かれていったのだった。
 そんなバゼットであるからこそ、悠花の仕事を尊重し、デートを途中でキャンセルすることにも鷹揚に応じるはず。悠花の頭の中はバゼットの優しさを見通した上で嘘をついた自分への嫌悪でいっぱいだった。
 明日突然、広告代理店が化粧品会社のCMの打ち合わせをしたいと言ってきた。化粧品会社側のキーマンである重役も来るという。なので明日はオフを返上して頑張りたい。だから今日はあまり遅くまで付き合えないし、印象を良くするために、できれば早く帰ってボディケアをしたい。
 ディナーの席でそう切り出した時、悠花はバゼットの目を直視できなかった。大手の化粧品会社から、新作グロスのCM起用の話が来ているのは本当である。しかし明日は打ち合わせの予定など無い。
「……まあ、残念だけどね。せっかく今日は朝まで一緒にいれると思っていたから」
 あまり物分かりがいいというのも、恋人に対して失礼だと思ったのかもしれない。カナダで付き合ったボーイフレンドもそうだったが、海外の男性特有の女性に対する考え方、気遣いがまた悠花が惹かれる部分の一つだった。日本人とも付き合ったことはあるが、どうしてもこういった女性優位のきめ細やかさという点では、日本人は外国人に敵わない。
「ごめんなさい」
 車は悠花のマンションの少し手前に停まった。
「気にしないで。明日そんな大事な仕事があるのに、眉間にシワを寄せてたら可愛い顔が台無しだ」
 と、助手席の悠花を抱き寄せ、こめかみに優しくキスをした。そのキスがむしろ悠花の心にズキリと突き刺さった。


LOVE AFFAIRの最初へ LOVE AFFAIR 18 LOVE AFFAIR 20 LOVE AFFAIRの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前