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変容
【教師 官能小説】

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変心-2

 金曜の夕方、勤務を終え帰途につく途中、毎朝子供に飲ませている牛乳が切れたため、スーパーに寄った。無事いつものメーカーの牛乳を買い、駐車場の車に乗り込もうとした時、いきなり視界がブラックアウトした。 何事か理解するまもなく、強烈にお腹を殴られ、息もできない状態になった。崩れるように前かがみで悶絶する恵は当然叫ぶことも抵抗することもできない状態で、あっというまに車に乗せられた。全く移動しなかったことを考えると、恵の車の隣にあったバンに乗せられたらしい。

 そこからは真っ黒の視界の中、ただ車の振動のみを感じていた。放り込まれた車内では大音量で音楽が流れていて、車外の音は全く聞き取れなかった。両手、両足共に紐でくくられ、イモムシのような格好で蠢くばかりだった。口は塞がれていなかったので何度も叫んだが、全く状況は変化しなかった。

 そうしてどのくらい経っただろうか。車は止まり、この部屋に連れ込まれた。顔を覆っていた黒い袋と足の紐がはずされ、ようやく周囲を確認したとき、そこにいたのは全く面識のない黒い服の男と浮浪者だった。

「私をどうするつもり!?」

 車中で散々叫んだ台詞を再び口にしたが、返答は無かった。ようやく男の声が聞けたのはつい先ほどで、その言葉は「しゃぶれ」だった。

 誘拐した目的は分からない。これほど他人に恨まれる心当たりもない。家は富豪でも何でもない、ただのありふれた中流家庭だ。怨恨でも金目当てでもないとしたら、残るは身体か?しかし、なぜ私が?確かに若い頃は可愛いと言われたことが再三ある。しかし、そばかすだらけの顔、Aカップの胸。化粧気はゼロで服装もありきたり。年齢も30半ばだ。性的魅力があるとはお世辞にも言えないだろう。

 全く納得がいく理由を見つけられないまま、恵は文字通り目前に迫った貞操の危機に、ひたすら逃走の方法を考えていた。

 レイプされるなんて有り得ない。何とかして身を守らなければ。しかし、足は動くものの、手は拘束されたままで、この窓もない六畳ほどのコンクリートむき出しの部屋の隅に置かれている唯一の家具、キングサイズのベッドの脚に金属性の鎖で繋がれてしまっている。しかも、出入り口は男の後ろのドア1カ所のみで、何故か内鍵式だった。男が鍵をかけたのを見たから間違いない。そしてその鍵は男のポケットの中だった。

 どう考えてもこの部屋からの逃走は絶望的だった。自由な口を使って叫んでみても都合良く助けは来ないだろうし、叫ばれることも計算尽くだろう。つまり、ここは人里離れた山奥か、防音が完璧な場所のどちらかだろうが、そんな推測は現在の危機的状況を打開する上で何の役にも立たない。携帯はバッグごと手元に無かった。

“会話でその気を変えさせる?”

 無理だ。
 スーパーでの事といい、この部屋の事といい、完全に計画的に私を狙っている。レイプが目的ならお金やその他の条件提示では状況を変えられないだろう。

 浮浪者の陰茎から顔を背けながら必死に考えた結果は、レイプが避けられないなら、被害をできるだけ少なくして、できるだけ早く解放してもらうか、会話や肉体的な抵抗でできるだけ時間を稼いで外部からの助けを待つという方法だった。

“でも…”

 男が二度目に発した言葉は「100回の射精で解放する」というものだった。運が良ければ2,3回、せいぜい4、5回耐えれば済むだろうと考えていた恵にとって、その条件は慮外のものだった。
 スーパーの時点で六時、はっきりとは分からないものの、それから二時間経っていたとして、現在は八時ぐらいか。そろそろ家族が恵の異変に気づいてもおかしくない。そこから4、5回分のレイプ…。一回20分だとして二時間。携帯さえ返してもらえば十時過ぎには連絡が入れられる。夫や姑はひどく怒るだろうが、仕事や不意の飲み会等の言い訳がギリギリ通じる時間だ。ここがどこだか分からないから、家に着くのは今日中には無理かもしれない。その場合は友達の家に泊まったことにすればいい。うまくいけばレイプの事実を夫や家族に知られないで済む。

 そう考えていた恵は、己の目算の甘さを痛感させられた。そして、何の根拠もない男の言葉を信じている自分に心底腹が立った。混乱が怒りに変わり、その思いを目に込めて精一杯男を睨みつけたが、男は全く気にしていない風だった。

 それから数分後。状況は激変し、目の前には浮浪者の死体が転がっている。


 あれから何時間経っただろうか。現在、恵は一人だった。部屋は薄闇に包まれ、常夜灯のみが瞬いている。

 男は浮浪者を殺した後、何も言わずに出て行ってしまった。浮浪者の死体をそのままにして。陰茎だけでなく、身体全体が不潔で臭かった浮浪者だが、死後、筋の弛緩と共に失禁、脱糞したのだろう。部屋には耐え難い悪臭が立ちこめており、否が応でも死体の存在を意識させられる。

 混乱から嫌悪、怒りへと変化した感情は、今や恐れと不安、焦りに変貌を遂げていた。

 本当に何が目的なのだろうか。男はその後、恵に一切手を触れず去っていった。身体が目的ならどうにでもできたはずだ。相手の意図が全く理解できない。しかし、もはやそんなことはどうでもいい。

 茫然自失の状態から脱した恵は、千載一遇のチャンスを生かすべく、必死に脱出を図った。

 あの男は殺人者で異常者だ。偶発的な事故ではなく、明確な意図を持って人を殺した。何の脈絡も無く、感情の昂ぶりを一切見せずに。人を殺すこと、生命を奪うことに何の躊躇もなかった、最悪の異常者だ。金、怨恨、身体のどれかが目的だろうと思っていたが、もしかすると恵の生命自体が目的なのかもしれない。例えそうじゃなくても、何の拍子に殺されるか…。男が居ないこの時間が脱出の最後の機会だ。何としてでも逃げなければ。

 だが、必死の覚悟で脱出を試みる恵を嘲笑うかのように、ただただ時間だけが過ぎていった。


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