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ピノキオ
【その他 官能小説】

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ボロアパート-1

美鈴がこのボロアパートに引っ越してきたのは俊太がまだ二歳の時だった。以来、俊太を保育園に預け、美鈴はスーパーマーケットで働き生計を立ててきた。
2階建て、各階に3室、風呂無し、共同便所の築30年以上のアパートだった。1階の奥の部屋に美鈴と俊太の親子、中央の部屋には60歳前後の印鑑彫職人である池田が部屋を借りており、2階の2室は近くの運送会社が借りているが、不便なせいか宿泊する者はめったになかった。時折、学生が空いている部屋を借りるが2ヶ月ともたずに引っ越してしまう、よほどのボロアパートである。

俊太が4歳の時、入り口に一番近い部屋に優斗と由里子の母子が引っ越してきた。
由里子と優斗はどことなく暗い顔をして、笑顔が無い。ボロアパートに住むには不釣合いなブランドの洋服を着ていた。事情を察してか美鈴は由里子に積極的にアパートや地域の事を教えた。
凛とした顔立ちに上品な仕草が由里子の過去を語る、まぎれもなくセレブな奥様である。優斗も母親に似て鼻筋が通ったさわやかや印象を受ける少年であった。

俊太と6歳年上の優斗が仲良くなるのに時間はかからなかった。

優斗は小学校に通ったが友達をつくれなかった。以前の学校では多くの友達がいたのに、今度の学校ではクラスメイトに口を開こうとしなかった。
学校から帰るとアパートから離れることなくいつも一人で遊んだ。アパートの裏で地蜘蛛を捕まえたり、ゼニゴケを南国に見立ててジオラマにしたりした。ある雨の日に二本の傘を広げ遊んでいると俊太がやって来て、いつしか二人は秘密基地ごっこを始める様になった。
美鈴は二人の遊びを見て、時々スーパーからダンボールを貰ってきて渡すと、二人の秘密基地はダンボールで作られていった。

アパートは駅から遠く、市道に面した床屋を曲がり三軒先にある。表の玄関は引き戸で、開けると左手に階段、真っ直ぐがモルタルの廊下で突き当たりが共同の便所である。その廊下の左手に三部屋が並ぶ薄暗い造りだった。
由里子と優斗は階段の隣の一番手前に部屋を借りた。


このアパートには3人の外部からの侵入者があった。一人はプロパンガスのボンベの交換、もう一人は便所の汲み取り、そしてもう一人は通称、お菓子のおじさんだった。
お菓子のおじさんとは俊太が付けた名前で、実際には美鈴の勤め先のスーパーマーケットの卸問屋の営業マンである。この男は美鈴を車で送ってくれることがしばしばあって、必ず俊太にお菓子を買って来てくれた。
ある祭日にお菓子のおじさんがやって来た時のことである。優斗と俊太はいつもの様に秘密基地で遊んでいた。そこに千円札を出して「今日はお菓子を買って来なかったから、二人で買っておいで。」と渡された。俊太は喜んで優斗を誘いお菓子を買いにいった。1時間くらい経って戻ると玄関先で美鈴にスーツの上着を着せてもらっているお菓子のおじさんを見たことがあった。小学生の優斗でも怪しげな関係であることに感づいた。
美鈴の仕事は、遅番の日は、お昼までにスーパーへ行けば良かったが、帰りの保育園へ駆け足になり、早番の日は俊太を保育園に送るとスーパーへ駆け足になった。この早番の日の帰りに美鈴はお菓子のおじさんの車に乗ることが度々あった。

由里子は飲食関係の仕事をすると、みんなに話していた。港が見えるマンションに暮らしていた由里子と優斗だったが、夫が事業で何らかのトラブルを起こし、そのまま失踪してしまった。それ以後、生活のすべてが一変してしまった。
飲食関係とは言うが、なぜだかあまりにも時間が不規則であり、時には早朝から家を出たり、ある時は明け方近くに帰宅することもあった。何不自由なく暮らしてきた由里子が平気な訳はなく、疲れきった態度に形相までも変わってしまい、優斗は現実を逃避するかの様に秘密基地にいることが多かった。

秘密基地の窓からはアパートの狭い廊下が覗ける。モルタルの廊下はいつも薄暗く、カビの匂いと便所のアンモニア臭が入り雑じり、子供の優斗と俊太には不気味に思えていた。特に俊太は便所を怖がり、美鈴について来てもらったりする、何気ない親子のやり取りが優斗には羨ましかった。美鈴の横顔はいつも優しそうで優斗にとっては、女神か妖精に匹敵するほど安心感と憧れを抱かせていた。


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