ケッチャク-8
未知の敵に対して、戦力は期待出来ないのだ。
「あの……」
リュディも一歩進み出て何かを伝えようと口を開きかけたのだが、すかさずノアに足を踏まれた。
「ッ?!」
幸い警備隊長は気づかなかったので、ノアはリュディの手を引いてさりげなくその場から離れる。
「リュディさん。正直なのは結構ですが、今回は止めて下さい」
「っ」
ノアの言葉にリュディは息を飲んだ。
「貴女が作った植物だと話して、それが自己防衛の為だったと分かっても世間は貴女を糾弾するでしょう。貴女個人であればそれも構いませんが、今はランス様がご一緒です。下手をしたらファンがエザルを利用して世界に侵略を開始したと、思われる可能性もあります」
「ぁ……」
「気が咎めるのは分かります。貴女は優しい方ですから……だからこそ、今はこの吸血蔦を枯らす事だけを考えて下さい。それが、貴女の罪ほろぼしになりますから」
「はい」
リュディはしゅうんと項垂れて反省する。
何もかも正直に話した方が良いと思ったが、それは自分が楽になりたいだけ。
それによってどれほど周りに迷惑をかけるか考えていなかった。
「これからは、こんな感じで物事を考えて下さいね。ランス様の妻となるからには、もっと俯瞰的に見ないと……」
「っ妻っ?!」
思わず悲鳴の様な声を上げたリュディは、慌てて口を塞ぐ。
「申し訳ありませんが、ランス様に諦める気は更々ありません。時間がかかっても必ず落とします」
ノアは見たことの無い笑みを顔に張り付けてニヤニヤと話す。
「そんなっ……」
そんな一方的な話があるだろうか?
自分の気持ちはどうなるのだ?
という気持ちを込めてリュディは口をパクパクさせた。
「貴女も……覚悟を決めて下さい」
ボクはもう諦めましたから、とノアはふふんと笑い主の元に戻る。
「ぁ……でも……」
ノアに向かって挙げられたリュディの手は、虚しく空を切った。
(そ……そんなぁ……)
残されたリュディは呆然とし、やりきれない気持ちを何処にぶつけようかと考えるのだった。