ケッチャク-6
(つうか、アレ何なんだ?)
男は子供と走りながらチラリと後方を見た。
男の目にはゆっくりゆっくり動く巨大な植物が映っている。
(吸血蔦に似てるけど……)
冒険者である男は見慣れた吸血蔦を頭に思い浮かべ、それを振り払う様に首を振った。
季節の変わり目のこの時期に綿毛に乗せて種を飛ばす吸血蔦……それとコレが同じ種だと考えただけで全身に寒気が走る。
(似てるだけ……だよな……)
男は手を繋いでいた子供をひょいっと抱え上げ、避難場所になっているであろう領主の舘へ急ぐのだった。
エザルまで後30分位の位置からでも、街の様子がおかしいのが分かった。
街から人々が逃げ出しているし、あちこちで砂ぼこりが舞っている。
テオ達は逃げている人々の波を逆走し、エザルへと急いだ。
「街から出れる方は外へ避難して下さい!他の方は領主の舘へ!」
逃げ惑う人々を誘導する警備隊員の声が響き、その声を聞いたランスはおや?と思いつつ声の主へと近づく。
「ああ、やはり……警備隊長殿っ!」
ランスは以前会ったエザルの警備隊長に向かって大きく手を振った。
「!貴殿はっ」
警備隊長にとってランスとの再会は幸運だ。
見た事も聞いた事も無い巨大な植物相手に、どう対処していいか分からず、逃げの一手だったのだから。
「以前お会いした植物学者です。覚えておいでですか?」
「勿論!勿論です!今、正にあの時の植物が……っ」
エザル警備隊長は人混みから抜けて、ランスを引っ張って物陰へ移動した。
騒ぎは今朝起こった。
ざわざわと蠢くだけだった巨大吸血蔦が、ガリガリと地面を割りながら移動を始めたのだ。
「今の所植物から直接危害を加えられた者は居ません」
怪我人は居るが、混乱に巻き込まれて転倒したりが殆どだ。
「樹液に毒があるとかの可能性を考慮して斬ったりも出来ず……」
「ああ、その点は大丈夫です。あの時頂いたサンプルを然るべき場所で調べた結果、大変な事が分かりまして……それで戻って来たのです」
ランスはその結果を警備隊長に報告する。