ケッチャク-17
「え?ええぇっ?!」
「うわっちょっタンマっ!!」
大口を開けたピィは明らかに空気を吸っていて、明らかに何かを吐き出す構えだ。
ファイターと常連は大慌てで窪み近くから逃げ出し、近くの砂丘の影に隠れる。
同時にピィの吸い込みが終わり、周りを静寂が包んだ。
ブシャアアァァッ
静寂だったのもつかの間、次の瞬間には強烈な水蒸気が砂の地面に叩きつけられる。
水蒸気によって水分を含んだ砂粒が落ち、砂煙が消えて魔物パルの姿がはっきりと見えてきた。
そこには底に横たわる魔物パルしか居ない。
「や……やだっ……テオは?」
一緒に居た筈のテオの姿が見えず、リュディはペシペシとピィを叩いた。
『案ずるでない。あそこじゃ』
顎を動かしたピィの視線を追ってみると、魔物パルが何やら口をモゴモゴさせている。
「……まさか……」
そのまさかだった……おもむろに口を開けた魔物パルから、唾液でギトギトに濡れたテオが転がり落ちたのだ。
「うえっぺぺっ……お前な、他にやり方あったんじゃねぇの?!」
『…………』
文句を言うテオから魔物パルはそろっと視線を外す。
急に『男を守れ』と脳内に命令が下り、咄嗟にテオを口の中に入れた。
結果的に守れたのだから良いのだが、あの命令はいったい……と、顔を上げた魔物パルが見たものは、金色のオーラを放つピィだった。
『ウソ……魔……獣……?』
金色のオーラ、金色の目……何よりも魂が震える程の畏怖……実際に会ったのは初めてだが、魔物パルには分かる。
ピィは魔物や精霊の祖……異世界の住人である魔獣だ。
「なんだ。ピィって魔獣だったのか」
『!?』
『?!』
さらっと言い放ったテオの言葉に驚いたのは魔物パルとピィだった。
『ちょっ……』
『驚かんのか?』
言葉に気をつけろ、と焦る魔物パルを他所にピィは片眉を上げて感心する。
「知り合いに魔獣が居るから」
『ほう』
(儂以外にも魔獣がおったか……)
魔獣は500年前の大戦以来こちらの世界に召喚されなくなっていた。
ピィも500年以上前に召喚され、マスターである召喚師が今際の際に異世界へ戻すと言ったのを断ってこちらの世界に留まった。