ケッチャク-13
四方から襲いかかる蔦を、空中回転しながら避けたパルは感心した、と唇を舐めた。
「ふうん?人間としては死んだも同然なのに、アタシの事は忘れられない?」
パルの言葉に蔦は応える様に蠢く。
人間としての……いや、男としてのプライドをズタズタにした女に復讐しようとした結果こうなったにも関わらず、この男はやはりパルに仕返しがしたいらしい。
何とも執念深いが、諦めの悪いのは嫌いではない。
「んふ♪じゃあ全身全霊かけて相手してあげるよぉ♪」
パルはそう言うと何の躊躇いも無く魔物へと変貌した。
「なっ?!」
「なんだぁっ?!!」
いきなり降って沸いた魔物に、さすがの冒険者達も顔色を無くす。
幸いな事にパルが黒蜥蜴に変化した様には見えなかったらしい。
突然、空から落ちてきた感じだ。
人間にとって魔物は自分達に害を成す生き物であり、攻撃対象に他ならない。
「あのっ馬鹿っ」
「ありゃりゃ」
テオは額に手の平を当てて空を仰ぎ、ランスはどうしようか?とリュディと視線を交わす。
冒険者達は各々武器を構え、巨大な吸血蔦と黒蜥蜴の動きを見据えた。
「手ぇ出すな!少なくとも蜥蜴はこっちにゃ攻撃しねぇ」
テオは冒険者達に声をかけて間に割り込む。
「って言われてもっ!!」
巨大な黒蜥蜴は嬉々として尻尾をバッタンバッタン振り、それが地面に叩きつれられる度に足元が揺れていた。
そんな黒蜥蜴が無害な筈が無い、と冒険者達は主にパルを警戒している。
「チッ」
口でどれだけ説明しても無駄だと思ったテオは、舌打ちしつつパルに向かって走る。
「テオ坊っ危ねえって!!」
「大丈夫だって!」
テオは親指を立てて合図を送ると、パルの尻尾を駆け上がった。
「コラっ!考え無しの直情魔物っ!」
背中を走って頭部まで辿り着いたテオは、ポカンと軽快な音で巨大な頭を殴る。
『いっ……』
「シッ、喋んな。誰もお前がパルだって気づいてねぇ。このまましらばっくれるぞ」
耳元でまくし立てたテオの囁きに、パルはハッと我に返って小さく頷いた。
『……ゴメン……』
テオにだけ聞こえるように謝ったパルに、テオは苦笑してチュッとキスをする。