ケッチャク-12
棟の上から煙が立ち上がり、領主の舘に避難していた人々が何事かと注目した。
それは、以前テオが貰った発煙筒で緊急時に助けを求める為のもの。
一般的には余り知られていないが、冒険者達の間ではそれを見たら駆けつけるのが常識。
案の定、煙を見た冒険者達がわらわらと棟に集まって来た。
「おう。何だテオ坊か」
「急に居なくなりやがって!残りの家賃払え馬鹿野郎」
以前エザルで出会った冒険者達がテオを囲んで次々と声をかける。
中には小突いたり蹴ったりするのも居たが、それはご愛嬌だ。
テオは集まってきた冒険者達に事情を話して協力を仰ぐ。
未知のモノに対しての耐性は警備隊より冒険者の方が優れているし、何より命知らずの連中なのでこういった危機には燃えるのだ。
当初の計画では基本放置プレイだったが、吸血蔦を砂丘へ誘導する方向に変更。
「ほーれほれ」
「こっちだぞ〜」
「こっちの水は甘いぞぉ〜」
冒険者全員で水瓶を抱えて、ぱちゃぱちゃと水を撒きながら誘うのだ。
ちょっと間抜けだが効果は抜群だった。
吸血蔦は誘われるがまま冒険者達、砂丘方向へ移動していた。
「パルちゃんっこっちこっち」
「はいは〜い」
1人の冒険者に呼ばれ、パルは水瓶を抱えて飛んでいく。
空になった水瓶と交換すると、また水を汲みに戻る。
「ピィっ」
『ピ』
入れ替わる様に口に水瓶をくわえたピィが来て、別の冒険者と瓶を交換していった。
「うおっと」
バシャァッ
時折、蔦が襲いかかり水瓶ごと冒険者を絡め取ろうとするが、そこは冒険者の勘で瓶を投げつけ、そっちに気を取られている隙に逃げる。
「あぶねっ」
「水分を供給する度に動きが良くなるな……」
「しかも、あの埋まってる人間さあ……」
「ああ、むっちゃ生き生きしてきてんな」
冒険者達の言う通り、吸血蔦の動きが機敏になりつつあるし、寄生され生きた養分となった人間が何だか艶々していた。
相変わらず唸り声はあげているし、その口からは泡を吹いているし、目も白目を向いているのだが、微かに口角が上がり自分の意思で動いている様に見えなくもない。
特に、パルが近くを飛ぶ時などあからさまに狙っている。