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BLACK or WHITE?
【幼馴染 官能小説】

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−6−-3

勢いに任せて、広いフローリングのリビングの上に、椎奈は押し倒された。少し動揺を見せながらも、意地を張った椎奈は気丈に、孝太郎の顔を睨み上げる。
そんな彼女の上に圧し掛かり、孝太郎は膝立ちのまま、もどかしげに着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。柔道で鍛えられた彼の引き締まった上半身が露になり、椎奈は息を呑む。つい見惚れてしまうが、はっと我に返り、すぐに気を引き締める。早くもこんな調子では、勝負に負けてしまう。
椎奈の些細な抵抗など軽く往なすかのように、孝太郎は彼女の服を脱がせて、何度も愛撫と口づけを施した。
あまりの心地よさに、先ほどまでの彼女の意地など簡単に緩まされ、未知の感覚に声を上げる。躊躇う間もなく、椎奈はその行為に溺れた。
お互い、初めてで加減が分からず、手探りでも貪りあうように激しく体を求めた。吐息と熱と鼓動が重なり、溶け合っていく。
「椎奈……」
繋がる直前、孝太郎は椎奈の髪を掻き上げながら、耳元でそっと彼女の名を呟いた。
大きい手に優しく頬を包まれながら深い眼差しで見つめられ、息が詰まりそうになる。その声音に込められた様々な感情に、何故だか彼女は涙が溢れそうになる。
だが、それも束の間。刹那の痛みとともに快楽が全身を駆け巡り、全てを奪い合うかのように体を重ねた。五感が鋭くなり、まるで互いの感触がこの世の全てのように思えるような錯覚に包まれてゆく。


―――あれから、どれだけ時間が経ったのだろう。
真っ暗な室内、明かりは窓から差し込む僅かな月明かりだけで、全裸で2人きり。息が整った後、椎奈は近くに脱ぎ捨てられていた自分のキャミソールを慌てて引き寄せて、胸元を隠した。全てを終え、自分の体の隅々まで見られた後の方が、何だかより強い羞恥心を覚える。いつも薄着で彼の前に出ていたのが、今となっては信じられないぐらいだ。自分の体が、こんなに敏感に反応するだなんて、それまで知らなかったから。
「あたし……負けたのか?」
ぼんやりと、焦点の定まらない虚ろな表情で、椎奈はぽつりと呟いた。終始、彼に翻弄され、先に絶頂を迎えさせられたという事は、負けたという事になるだろう。
椎奈はそっと目を閉じて、先程の出来事を思い出す。お互い、相手を負かしたいという競争心や虚栄心を抱き、憎しみに近いような激情から及んだ行為なのに、勝負なんてもう途中からどうでも良くなっていた。
どうしてなのだろう。今、こんなにも、満たされて、温かいのは。もし、負けていたとしても、彼女の胸に悔しさは微塵もなかった。むしろ……。
違う、そんなはずはない。ふと生じた感情を振り払うかのように、椎奈はかぶりを振った。
「……いや、お前の勝ち。圧勝だよ」
同じく、孝太郎も心此処に在らずといった様子で、呟いた。もう幼い頃からずっと、自分は負けている。いや、勝負にすらなっていなかったかもしれない。彼女の心の中に、結局自分は一分も入りこめなかったから。
報われない自分の心の痛みと道連れに、彼女にも忘れられない自分の傷跡を付けるつもりで及んだ、身勝手で最低の行為。彼女から軽蔑され、拒絶されることで、もう自分の気持ちを徹底的に断つつもりだったのに。恋い焦がれ続けた彼女に触れられて、がむしゃらながらも、時折涙が出そうになる程の歓喜が込み上げる。今もまだ、結局自分の心は、彼女から離れられないままだ。
しかし、諦めの悪い自分は、まだ彼女の瞳の中に宿る、憎しみとは異なった親愛の情を感じてしまう。ここまで酷いことをしてのけたのに、そんなはずはない。
(やっぱり、椎奈が好きだ)
先程までの手に負えないくらいの激情が鎮まり、少し冷静さを取り戻した彼は、その言葉をぐっと呑み込むと、真逆の言葉を口にした。
「悪かった。もう、二度とこんなことはしない。椎奈が望んでる前みたいな友達に戻るのは、ちょっと時間が掛かるかもしれない、だから」
静かにそう呟くと、孝太郎は無表情に、椎奈の顔を見つめる。
その彼の暗い眼差しに、椎奈は漠然とした不安が襲い掛かった。
「少し、距離を置こう」
裸のままの彼女は、ぎゅっと自らの両手を強く握りしめた。突き放すような彼の言葉に、どうして自分はこんなに衝撃を受けているのだろう。
椎奈は素早く身支度を整えると、去り際に一言だけ、彼に問い掛けた。
「なあ、お前にとって、あたしは……いつまでライバルだった?」
彼女にはそぐわない、追い縋るような、弱気な瞳で、椎奈は彼を見つめた。
孝太郎はしばらく黙りこむと、
「昔から、椎奈は俺にとって、一番守ってあげたい女の子だったよ」
ぽつりと、ずっと秘めていた真実を告げた。
別に、彼は彼女と何かにつけて張り合いたいだなんて思っていなかった。全力でぶつかってくる彼女のプライドを傷付けないように、手を抜かないでいたら、いつの間にやらライバル視されてしまったのだった。本当は、その度に彼女を泣かせたりなんてしたくはなかったのに。
「そっか……」
それだけ聞くと、椎奈は別れの挨拶も告げずに、彼の前を去った。前の自分だったら、彼に見下されていると感じて、きっと激昂していたに違いない。
だが今は。自室に戻り、ベッドの上に力なく、くずおれるように腰掛ける。彼の腕に抱かれて芽生えた新たな気持ち。拒んだのは自分自身だ。今更、言えるはずがない。


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