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BLACK or WHITE?
【幼馴染 官能小説】

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−4−-1

あっという間に夏休みが過ぎて、秋の気配が感じられるようになった頃。
受験シーズンが近付き、3年生の先輩達が完全に引退して、孝太郎が新部長になってからの柔道部が本格的に始まった。結局、椎奈は副部長という位置に収まったが、彼がしっかり部の統制を取っているので、副部長といっても名ばかりで特にやる事はない。部長になれなかった事をいつまでも引きずるような彼女ではない。引き際はきちんと見極めているので、特に嫉妬する事も不満を抱く事もなく、彼のサポート役に徹していた。
だが、あれ以来、ほとんど2人はまともに会話をしていなかった。普段通り接しようと自分から言い出した椎奈も、いざ彼と面と向かって話すとなると、つい気まずくなって、話題が全く思い浮かばなくなってしまう。
今まで、どんな会話をしていただろう。柔道部の話、趣味の格闘技観戦の話、好きな漫画やゲームの話…よくこんな話をしていたような気がするが、いざ何か話そうとすると、頭の中が空白になってしまう。部活中の今も、事務的な内容以外はほとんど会話を交わす事もなかった。隣同士に住んでいるため、ベランダ越しに毎晩よく話していたが、当然それもない。椎奈が拒絶するかのように常にカーテンを閉ざしてしまっているからだ。覚悟を決めた孝太郎も、はっきりと結果が出るまで幼馴染の元鞘に納まろうなどといった考えはとっくに捨ててしまったため、今更無理矢理機嫌を取ろうとはしなかった。
そんな状態が何日か続いたある日。孝太郎の両親が夫婦揃って1週間程海外旅行へ出かけてしまったため、彼の食事を佐原家で用意する事になった。長い付き合いのため、互いに助け合ってきた両家にとっては、これまでも何度かこのような事があり、当たり前の事だった。
「ねぇ、椎奈ちゃん。お夕飯、孝太郎くんに持って行ってくれない?」
おっとりとした母親が、いつものにこやかな表情で、そう告げた。いつもなら何の抵抗もなく二つ返事をする椎奈だが、今回は少し嫌そうに顔を顰めた。
「えー、めんどくさい」
つい、心にもない台詞を吐いてしまう。
今までこんな反応を彼女がした事がなく、母は少し言葉に詰まると、
「いいよ、お母さん。私が行ってくるから」
ソファに並んで腰掛けて座っていた杏子が、自らそう名乗り出た。
「いいの?椎奈ちゃん」
「何で?」
そんな事を尋ねるのだと、椎奈は母に怪訝そうな目をしてみせる。
「だって、いつも喜んで行ってたじゃない。その後、3時間は絶対に帰ってこないし…だから、椎奈ちゃんの分も一緒に用意してたんだけど」
いつも、彼と一緒に食事を取り、その後大体ゲームをしていたので、帰宅が遅くなってしまうのだった。その間、自宅にいる杏子は不機嫌極まりないのだが、一緒について行って、2人が自分の存在をすっかり忘れてゲームに没頭している姿を眺めているのも面白くない。
「今日は家で食べるから…」
「ううん、私が孝ちゃんちで一緒に食べてくるから、持って行く分はそのままでいいよ。今から行ってくるね」
椎奈の言葉を遮って、杏子は立ち上がる。
「そう?じゃあ、杏子ちゃんお願いね」
母は、紙袋を彼女に手渡した。
「ごめんな、杏子」
椎奈も曖昧な笑顔を見せて、申し訳なさそうにそう言った。
「いいよ。行ってきます」


隣同士なので、距離にしてほんの数十歩の距離だ。草薙家の玄関の前に着くと、杏子はチャイムを押した。
「……はい」
「だらしない。まだ制服のまんまなの?」
彼がドアを開けた瞬間、しかめ面の杏子の開口一番がそれだった。
「杏子……」
孝太郎は、少しげんなりした顔を見せる。
「何、その失礼な態度。お姉ちゃんが来ると思ってた?ざーんねんでした、ものっすごく嫌がってたから、見かねて私が代わりに来てあげたんだからね、せいぜい感謝してよ」
そうしっかり釘を刺すと、その言葉は思った以上に彼にダメージを与えられたらしく、
「……はいはい、ありがと」
もう言い返す気力もないのか、力なく答える孝太郎の様子に、杏子は内心でほくそ笑んだ。
「じゃあ、お邪魔します」
彼の脇をすり抜けて勝手に玄関の中へ入ろうとする彼女に、
「え?お前、ウチあがってくの?」
「ん?何か問題ある?」
くるりと振り向いた瞬間、彼女が穿いているプリーツスカートの裾がふわりと舞う。小首を傾げて、世の男の大半が騙されるであろう、愛らしい仕種だった。
「いや、ないけど……」
彼女には嫌われていると思っていたので、わざわざ夕食を届けに来てくれただけでなく、家にあがると申し出てきたのは意外だった。
「淋しいだろうなーと思って、一緒にご飯食べてきてあげるってもう言ってきたから」
「……淋しいわけないだろ」
「どーだか。孝ちゃんは1人っ子の甘えんぼだからね。ホントは一週間以上1人っきりなんて耐え切れない位淋しくって、案外毎晩泣いてんじゃない?」
「それ、やめろって」
どうも彼女の中で自分はいじりがいのある淋しがりキャラとして定着しつつあり、孝太郎はすかさず否定する。そもそも、全くの事実無根だ。
「ま、いいや。とにかく。お邪魔しまーす」
孝太郎は杏子の強引さに唖然としつつも、とりあえず彼女を自宅へと招き入れた。―――いや、招かれざる客の侵入を許したというべきか。彼女の気付かれないところで、そっと溜息を吐いた。


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