マリアの猫-2
２．
雁首がヒクついて、オルガスムの近づいたのを知らせる。
思わぬ展開に、ティッシュはないかと首を巡らせるが、手の届くところに、はない。
えいままよ、 なるようになれとばかり、三毛の顔をめがけて発射をする。三毛の顔に飛び散るスパーム。
と、思いきや、一瞬早く、三毛は頭を翻すと、亀頭にかぶりついた。
雁首は傘をヒクヒクと震わせて、三毛の口中にスパームを流し込む。
三毛は、男根のうねりに上手いこと調子を合わせながら、スパームを飲み込んでいる。
発射が終わると、性欲を満たした開放感と、悪いことをしたような罪悪感が入り交じって、陰茎は急速にしぼみ始める。
尿道に残ったスパームが、男根の萎縮につれて、流れ出す。 三毛は、両手で男根を挟むように支えて、僅かな体液もすっかり嘗め尽くしてしまった。
三毛は、亀頭から口を外すと、そのままうずくまった。
この猫は何を考えているんだろう。
単に、飼い主に教わった通り、芸をしているのか、情事と知って、自らも興奮をしているのか。
種族を越えた情事が、理解できるのだろうか。
三毛が顔を上げた。
じっと見詰めていた僕の目と、目が合う。
三毛の目は、悩まし気に潤んで、何かものが云いたそうに見える。 僕は猫語が話せないが、この三毛はスペイン語を解するのだろうか。
「ミャーオ」
三毛はすっと立ち上がると、とっとっと庭の方に消えた。
３．
三毛は、矢張りマリアの飼い猫だと分かった。
「ヤスオの家の方に行くのを見たわ。 いたずらをしたら、遠慮なく追い返してください」
「いやいや、そんな事ありませんよ。 かわいいですよ（マリアさんみたいに）」
涼しげな目元に笑みを浮かべて、マリアはＲの発音のつよい、スペイン語訛りの英語を話す。
大原麗子をブルーネットにすると、こんな顔になるのかな。
小さいが、ぽっちゃりとした唇が、印象に残る。
三毛との秘めた情事は、繰り返された。
タオルケットを敷いて横になると、何処からともなく現れる。
ビデオテープのように、いつも決まったパターンで、進行した。
変わったことと言えば、三毛がマリアのものと分かったので、三毛の名前をマリアにした。
「マリア、テ・キエロ（愛してるよ）」
「オオ、マリア、ムチシモ・ビエン（最高に好いよ）」
聞きかじりのスペイン語で、呼びかける。 恐らく、マリアはそうしているに違いない。
気のせいか、三毛猫マリアも、この声を聞くと、更に興奮の度を高める。
通りの楓が紅葉して、秋がやってきた。
それと共に、金浴も終わった。
三毛猫マリアも来なくなった。
朝の散歩から戻ると、マリアが戸口から出てきた。
「ブエノス・ディアス・ マリア？」
「ブエノス・ディアス・ ヤスオ」
「しばらく会わなかったね、 お元気？」
「ワルクナイワ。 ヤスオハ？」
「元気だよ」
「良カッタワ。トコロデ、ヤスオは、パエリャ食べる？」
「スペイン料理の？」
「ソオ、 ワタシノ得意料理ナノヨ。 デモ、アレッテ２人分以上ナイト上手ク作レナイ。ヤスオが今夜夕食ニ来テクレルナラ作リタイ」
「それは有り難いな。パエリャは大好きだ」
「ソレデハ、七時ニ来テクダサイ」
僕には、マリアが僕の戻ってくるのを待ち受けて、出てきたんじゃないかと思われた。
まあそれはどうでもいい、久しぶりにパエリャにありつける。