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氷炎の魔女・若き日の憂鬱
【ファンタジー 官能小説】

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三人の子ども達-2


 アンのいない日々は、ぽっかり穴が空いてしまったように感じたが、ロルフはちゃんと王都に残り、士官学校に通っているのが救いだった。
 そして三ヶ月前。
 王都で盛大に開かれる建国祭にも、今年はアン抜きでロルフと二人で行った。

 石畳の広場には屋台が並び、食べ物の香ばしい煙が入り交ざる。弓射的や輪投げの屋台もあった。
 昔、三人で誰が一番景品を取れるか競ったのを思い出し、ロルフと笑い会う。
 今日はシャルも白衣を脱いで、祭り用の綺麗な服を着ていたし、二人で歩いていたせいか、互いの知り合いに会うと、よく恋人同士と間違えられてしまった。

 数年前まで、フロッケンベルク王都は夏の一時以外は比較的に閑散とした都市だったが、新たな街道が開けた今では、どっと住人の数が増えた。
 昔は商店街の人たちもシャルや双子と顔見知りばかりだったが、近頃はどんどん新しい店ができている。
 この国はまさに、大きな変化の時期を迎えているのだとシャルは思う。
 それに変化は国だけではない。成長するにつれてシャルもロルフも、互いの知らない人間関係を築くことが増えたのだ。
 ロルフの士官学校での同級生だって、シャルはごく数人しか知らない。さっきロルフと肩を叩き合っていた青年も、親しげに挨拶していった女の子だって、名前も聞いた事がない。
 今まで意識しないようにいた現実を、急に突きつけられたような気がして、楽しいはずなのに、どこか心に影が落ちる。

「シャルロッティ!」

 ふと、声をかけられて振り向くと、錬金術ギルドの同僚がいた。栗色の長い髪を束ねた青年は、五つほど年上の優男だ。彼も街道の開通後、他の領地から錬金術ギルドの本部がある王都へ移住した一人だ。
 シャルと研究の専門分野は違うが、話すとなかなか楽しい青年で、よくギルドの食堂などで顔を合わせる。

「へー。恋人と一緒かぁ。シャルの浮いた噂は聞かないから、驚いたよ」

 おどけた調子で言う同僚に、シャルは笑ってまた訂正した。

「恋人じゃないわ。彼はロルフ。ほら、私がよく話す双子の幼馴染で、兄の方よ」

「ああ、そうだったのか。初めまして。俺は……」

 傍らのロルフへ、同僚の青年は愛そうよく笑いかける。ロルフも挨拶を返していたが、なぜか少し不機嫌そうだった。
 同僚とは、ほんの少し会話しただけで別れ、引き続き祭りの賑わいを楽しんだ。
 そして夕日の照らす石畳の道を並んで歩き、帰宅する途中だった。
 ロルフはなぜか、ソワソワと落ち着かない様子だったが、不意に決心したように、シャルの手を引き、近くにあった人気のない公園へ誘った。

「本当は、士官学校を卒業して一人前になってから言うつもりだったけど……」


 やけに神妙な声で前置きされ、ロルフの少し金色がかったアメジスト色の瞳が、まっすぐにシャルを見つめた。

「シャル、俺のつがいになってくれる?」

 顔を真っ赤にして言うロルフを、声もなくポカンと見上げてしまった。
『つがい』というのは、人狼が伴侶を示す言葉だ。
 結婚しても離縁することもある人間と違い、人狼は一度決めた伴侶を決して変えない。もし相手が命を落としても、新たなつがいは二度と作らない。

「え……?」

「俺は昔からシャルが好きで、つがいになって欲しいと、ずっと思ってた。今日も恋人に見られるたびに、嬉しかったんだ」

「ロルフっ、な、な……」

 ロルフが悔しそうに目を伏せる。
 いつも穏やかな彼が、珍しく苛立ったように犬歯を口端から覗かせていた。

「でもシャルは、俺は恋人じゃないって言い切るんだもんな。あの錬金術師なんか、すごく親しそうだったし、俺が知らないだけで、シャルは好きなヤツがいるのか?」

「べ、別に……そんな人はいないし、訂正したのだって、深い意味じゃ……」

 なんだか責められているような気分になってしまい、シャルの声は自分でも、らしくないと思うほど小さくなる。

「今すぐつがいになってとは言わない。ただ、俺を幼馴染以上に見てくれるなら、先に約束だけでもしてほしい」

 そう言ったロルフは、やけに大人びた顔に見えた。
 病気になったのかと思うほど鼓動が早くなり、顔が火照っていく。


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