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氷炎の魔女・若き日の憂鬱
【ファンタジー 官能小説】

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三人の子ども達-1

 
 シャルは生まれてすぐに、言葉やあらゆる事を理解しはじめ、三歳で錬金術師の国家資格試験に合格した。
 白銀の髪は母親そっくりで、左右の色が異なる瞳は、両親から片方づつ受け継いだようだ。
 そして性格は自分でも、絶対に父親似だと考える。
 父の方でも、まったくそれに同意見だった。魔法やその他の才覚だけでなく、負けず嫌いで意地っ張りなところも似てしまったと言った。
 何事にも冷静沈着な父は、自分の欠点さえも冷静に判断できるのだ。

 自他共に認める変わり者なシャルだが、必要な時は普通の子どもらしく見せる猫かぶりの術も、ちゃんと心得ていた。
 だから学校に行く代わりに、大人たちと錬金術ギルドで研究していても、近所から気味悪がられることもなかった。
 ……正確にいえば、たまに悪意を向ける輩が出た時は、密かに迅速に実力行使で黙らせていた。
 そういう腹黒い所も、まちがいなく父親似である。

 とにかく、自分は大変に恵まれた環境で育ったと、シャルは思う。
 両親には溺愛されていたし、年齢に関わらず知り合いも多くできた。
 学校に行かなくても、お休みの日には近所の子どもたちと楽しく遊んだ。
 ただ、シャルが心の底から親友と思えたのは、ラインダース家の双子アンジェリーナとロルフの二人だけだ。

 アンは活発で好奇心いっぱいの妹で、ロルフは心配性で慎重派な兄。
 一つ年長の彼らが産まれたのは、遠いイスパニラ国だったが、双子は夏になれば毎年、決まった隊商の幌馬車に乗って、フロッケンベルクまでやってきた。
 なにしろシャルの父と双子の父は師弟で、母親同士は親友という、家族ぐるみの付き合いだ。
 双子の父が人狼であることも、シャルの父が氷の魔人で、母親はかつて吸血姫と呼ばれていた存在であることも、互いに知っている。
 夜になれば、双子は狼に変身して野山を駆け巡る。シャルロッティは彼らの父に背中へ乗せてもらい、楽しく遊んだ。

 そして双子が九歳の夏。
 ラインダース家はフロッケンベルクへ移住し、いつも一緒にいられるようになった。
 その頃になると、子どもたちは親の目を逃れ、自分たちだけで色々な冒険をやらかすようになってきた。
 それは大抵、アンとシャルが計画をして、ロルフは反対を唱えつつも心配してついてきてくれた。
 宝探しはもちろん、狼に変身して犬ゾリレースに飛び入りしたり、魔獣使いに追いかけられたり、鉱山の奥にあるドワーフ村へ行ったりと、想い出は数え切れない。
 雪解けの春も、短い輝く夏も、初雪のチラつく秋も、氷雪に覆われた白銀の冬も、いつでも三人は一緒だった。
 時にケンカもしたし、思いがけないピンチもあったけれど、三人で過ごす時は楽しすぎて、これが永遠に続けばいいと思っていた。

 しかし時は流れ、三人は成長する。
 シャルが十五歳、双子が十六歳になった去年の夏。
 アンは昔からの知り合いである隊商の首領チェスターと、若くして結婚した。それは隊商に加わり、旅暮らしを始めるということだ。
 ルーディおじさんやラヴィおばさん、それにロルフも、アンと離れるのは寂しいが、毎年会えるのだからと送り出した。

「……じゃあね。アン、元気で」

 馬車に乗るアンに、シャルはそれだけしか言えなかった。
 アンが昔からチェスターに恋をしていると知っていた。大切な幼馴染の幸せを一緒に喜びたいのに、妙に気分が落ち込む。
 歳の離れたチェスターは、三人のお兄さん的存在だった。気さくで賢く、シャルも昔から一目置いている人物だ。間違いなくアンを幸せにするだろう。
 そうでなければ、ルーディおじさんがアンを渡したりするはずがない。
 ……でも、なんだか大切な宝物を切り取られてしまったような気がした。

 もちろん、それは子どもじみた感傷だと知っていたから、笑顔で手を振って、夜中に自分の部屋でこっそり泣いた。



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