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LADY GUN
【推理 推理小説】

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病んだ精神-2

 田口が行方をくらましてから1年が過ぎても解決の糸口さえ見えない事件をしばしばテレビが取り上げる。クローズアップされるのが当時の警視庁総監の加藤正剛が拉致されていた娘の綾美を取り戻す為に犯行グループとの接触を内密にして捜査を混乱させた事だ。主犯格の田口が逃走した後にすぐに懲戒処分された。しかしその責任を問う世論の声は大きく退職金なしの懲戒処分だけでは甘いと警視庁は激しくバッシングされた。今でもバッシングは収まっていない。結果、田口が望んだ警視庁の権威失墜は成し遂げられた事になる。
 ある番組では霊能力者まで登場させ田口の潜伏先を予言してみたりする始末だ。そのような取り上げ方に若菜は腹が立ってしょうがない。いつもすぐにテレビを消してしまう。
 「絶対私が田口徹を見つけ出してやる…。」
気付くといつも缶ジュースを握り潰していた。

 そんな番組を複雑な気持ちで見ている者もいる。そう、この事件を遡ればそこに君臨していた湯島武史だ。
 「徹はどこにいるんだ…。あいつがあんな血も涙もないような極悪人になってしまったのは俺の責任だ。俺はとんでもない化け物を作り出してしまった…。」
沈痛な面持ちでテレビを見る武史。そんな武史に妻の絵里がゆっくりと口を開く。
 「徹くんは本当に血も涙もない極悪人なのかな…?」
意外な言葉に絵里を見つめる。
 「どうしてそう思う?」
絵里は躊躇いながらも口を開く。
 「あなたが警察に徹くんを通報しようとしていた事があったでしょう?」
 「ああ。あの時だって絵里は徹に酷い事されたろ?あんな写真撮られて…」
通報を察した田口が武史の口を塞ぐ為に絵里の全裸緊縛写真を撮り脅して来たのがその事だ。
 「違うの…。」
 「何が違うんだ…?」
伏し目がちだった絵里の視線が上がり田口を見据えて言った。
 「あの写真は…、合成だったの。」
 「合成…?一体何の事だ…?」
混乱する武史。
 「実際私は指一本触られてなかったの。」
 「どういう事だ…?」
 「あの日突然私の前に徹くんが来て、あなたが通報しなくてもじき警察は自分の名前を突き止める事になるから、あなたが過去を全て明らかにして私達家族の今の幸せを投げ捨てるような事はないって。だから合成写真で私の恥ずかしい写真を作り、それであなたを脅して口を封じるから協力しろと言われたの。私も今の幸せを投げ捨てたくなかった。徹くんは自分が起こしているこの事件の責任は全て自分にあると言ってた。あなたには関係のない事だって。この事件の始まりは皆川静香という刑事が高田くんを殺害した時点から始まったものだと。だからあなたのしようとしている事は無意味だから余計な真似はさせるなって。本当は口止めされてたんだけど、血も涙もない極悪人って徹くんが言われるのは、私、かわいそう…。」
 「ほ、本当か?それ…。」
 「うん。」
武史は頭を金槌で殴られたかのような衝撃を受けた。自分に刃向かったと思っていた徹が、実は自分を守ってくれたのだという新事実に言葉を無くした。
 「俺は…どうすればいいんだ…。」
自分の犯した罪への意識と、今の幸せを失いたくない気持ちで葛藤する。胸が痛い。しかし徹を心配する気持ちは強くなる一方だ。
 「あの子もあの子なりに必死で行きようとして頑張ってきたんじゃないかな。もし私が誰かに殺されたらあなただって殺人鬼に変わるでしょう?殺人鬼かそうでないかなんてほんの紙一重なのかも知れない。徹くんだってそう。紙一重なのよ。普通の人間と変わらない。特別じゃないのよ。」
絵里にはあの日目の前にいた田口が血も涙もない極悪人にはとても見えなかったのであった。


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