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LADY GUN
【推理 推理小説】

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病んだ精神-1

 あれ以来、田口の犯行らしき事件はピタリと止まった。婦女暴行事件が発生する度、可能性があれば日本中、どこでも足を運んだ若菜。しかし今の所どれも田口の影は見あたらなかった。
 「しかし田口は本当に犯行を犯してないんだろうか…。俺たちが見落としているだけか…?」
今回、北海道の婦女暴行事件に捜査に出掛けた。若菜は石山とコンビを組み捜査を行っている。警視庁の最重要案件の為、優秀な2人のコンビが求められたという事だ。ベテランで有能な石山と若手で有能な若菜の選定に誰も異論はなかった。若菜は静香が行った全ての捜査の情報を持っている。千城県で最強コンビとも言える2人だ。そんな石山が帰りの飛行機の中で若菜に聞いた。
 「いや、絶対犯行は行っているはずです。しかし事件を公にするほど田口は馬鹿じゃない。田口に泣かされている女性は必ずいます。何とか手掛かりを掴まなければ…。捜査に出掛けた先々で失踪者情報も散々調べて来ました。しかしどれも田口の影がありません。田口はきっと失踪しても誰にも気付かれない女性を食い物にしてるんだと思います。」
 「ま、当たり前に調べて尻尾を掴まれるような馬鹿な男じゃないしな。やり方を変えなきゃいかんかなぁ…。」
溜め息をつく石山。
 飛行機の窓から東日本大震災で被災した街並みが見えた。
 「もうあの震災から1年かぁ…。早かったような長かったような…。でも未だに苦しんでる人達は大勢いるんだよな。俺らは恵まれてる方だよな。帰る家も家族もいる。多少不便はあるがほぼ元通りの生活が出来ているしな。」
 「ですよね…。(翔太くん、どうしてるかな…。)」
被災地で出会った横山翔太を思い出す。どこかで元気で生きていてくれる事を願うばかりだ。
 「原発問題もまだまだ終わりそうにないし、現地の人らは色々大変だろうな。」
 「警察もだいぶ人が減ったらしいですね。治安は大丈夫なんでしょうか?」
 「まぁ多少荒れているだろうな。しかし治安も何も避難区域が多くて住民時代仮設住宅に集まってるからある意味警備もやりやすいかもな。わざわざ被爆してまで盗み働く奴もいないだろ。」
しかし若菜にはあの震災時にまだ余震が続き、いつ津波が来るか分からない状況の中で盗みを働こうとしていた人間がいた事が頭の中に強く残っている。
 「罪を犯す者はいかなる状況に置いてもチャンスを窺っているものじゃないでしょうか。もしかしたら田口はどこかの被災地に潜んでいるかも知れませんね。彼は私達の裏をかくのが得意みたいなんで、ね。」
 「十分有り得るな。被災地の事件などおかしな動きを捜査してみるか。」
 「はい。」
田口の捜査ははっきり言って行き詰まっている。可能性がある事は何でも調べていかなければとても田口には辿り着けそうにもない。目先を変えた捜査も必要だ。
 相変わらず窓の外を見ながら若菜が言った。
 「石山さん、翔太くん覚えてます?震災の時の。」
 「ああ。」
 「田口は翔太くんぐらいの年齢の時には既に女性をレイプする喜びを得ていたんですよね?」
 「そうだな。恐ろしいよ。」
 「もし翔太くんがあの時に田口と出会っていたなら、きっと同じ道を歩く事になっていた事でしょうね…。翔太くんは大丈夫でしょうか…。」
心配で仕方ない。
 「悪人は弱い心の隙を狙って入り込んで来る。翔太くんは大丈夫だろう。俺はあんな強い子を見たことがない。あの歳で親の死を受け止められる子供なんてそうはいない。あの時翔太くんはお前に出会った。将来立派な警察官になってくれるだろうよ。」
石山は若菜の頭を撫でた。若菜はニコッと笑い再び窓の外を見て、約束通り一緒にパトカーに乗り街の安全を守る翔太の姿を思い浮かべていた。


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