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大陸各地の小さな話
【ファンタジー その他小説】

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ジークの一番災難な日-6


***

 小一時間ほど色々な打ち合わせをしてから外に出ると、憎らしいくらい爽やかな小春日和だった。
 俺としては不本意極まりなかったが、ウリセスも含めて三人で、仲良く魔法学校へと歩いて向う。

「……いくらなんでも『シンデレラ』くらい、知っていると思っていましたよ」

 呆れたようにぼやくウリセスに、俺は顔を思いっきりしかめて唸った。

「無学で悪かったな」

「見事な棒読みの大根役者ですし」

「うるせぇ!!」

 ツンデレ女の話かと思ってたのに、台本を読んだら全然違った。
 おまけに恥ずかしいセリフばっかりだ。カンペ出されても、あんなのを普通に読み上げられるか!!
 ウリセスを蹴っ飛ばそうと脚をあげたら、赤いタータンチェックのスカートがひらんと舞い、慌てて手で押えた。
 ぐ……この、スカートってのは、なんでこう……っ!

 俺が着ているのは、魔法学校の女子制服だ。何しろ身体はマルセラなんだから。
 黒いローブマントは問題ない。白いブラウスに赤いリボンタイも我慢できる。問題は膝上丈のスカートだ!
 やたらと脚がスースーして気持ち悪いし、なにより自分がスカートを履いているという事実は耐え難い。
 やり場のない怒りに、黒い革ぐつと白い靴下を履いた脚が、プルプル震える。
 そして、そんな俺を眺め、すげぇ楽しそうにニタついてやがるウリセス。

「中の人はガサツで凶暴な男でも、身体は九歳の可憐な女の子なんですから、言葉使いや仕草も気をつけましょうね」

「おい! 絶対に楽しんでるだろ!」

「ええ、それはもう」

 ニヤニヤしているコイツの呼び名は、やっぱり鬼畜スーツがピッタリだ。
 しかし、そのニヤケ面がふいに引き締まった。周囲に漏れないように、声を潜めて囁く。

「身代わりを決意したなら、これだけは肝に銘じてください。貴方の行いは、全てマルセラちゃんの行いとなり、場合によっては彼女の今後にも、多大な影響を与えます」

 俺を見下ろすアイスブルーの眼には、さっきまでの呑気さが嘘のように、厳しい光が宿っている。
 一瞬、俺は息を飲んだ。遅ればせながら、思っていたより事態は厳しいことに気づく。
 つまり、俺がヘタなことをすれば、それは全部マルセラに降りかかるってわけだ。

「チ……わかったよ」

「舌打ちも禁止ですよ、マ ル セ ラ ちゃん ?」

「〜っ!!」

 効き目が切れるまで、無言で押し通すしかねぇ!!
 早くもげっそりした気分で、反対側を見上げた。
 すっかり落ち込んじまったマルセラは、ずっと神妙な顔で押し黙って歩いてる。
 身につけているのは、ジーンズに黒いシャツという、俺の私服だ。
 退魔士の制服は身分証明になって便利だが、もし休日でも魔獣騒動に出くわせば、戦わなくちゃならない。今の状態でそんなことになったら、即座に殺されちまうからな。
 もっとも、腑抜けた落ち込み顔が幸いしてるのか、私服で九歳児と歩いているのに、周囲からヒソヒソ声も不審そうな視線も向けられない。

「……心配すんな」

 迷った末に思い切って、硬くゴツゴツした自分の手を握った。

「ジークお兄ちゃん……?」

 驚いたように、マルセラが目を見開いた。

「一日だけの辛抱だ。誰にもバレねーように名演技してやる。だからお前も、今日だけは我慢しろ。俺の身体で泣かなけりゃ、それで許す」

「……うん。ありがとう」

 正面に向き直ると、頭上から半泣き声の返事と、鼻をすする音が聞こえた。
 ――ま、今のはカウントに入れないでやるさ。



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