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LADY GUN
【推理 推理小説】

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静香の命-4

 もうマナーも世間体もなかった。若菜は摘んでいたお香を床にパラパラと落とし夢中で棺桶に向かい顔の小窓を開けた。
 「先輩ぁぁぃいっ!ごめんなさい!ごめんなさい!!」
泣き崩れる若菜。お経の声も掻き消す程に泣き喚く。涙と鼻水を垂らし、何を言っているのか分からない程に顔をグシャグシャにして泣き喚いた。
 誰も止めなかった。島田や中山の古参者達の脳裏に浮かんだのは正芳が亡くなった時の静香の姿と、父の遺体の入った棺桶にいつまでもピタリと寄り添っていた高校生の若菜だった。誰もが目頭を熱くした。大事な者を二度も失った若菜を誰が止められようか。そんな若菜の姿が涙で見えなかった。
 そんな中、麗子は表情一つ変えず、ただただ若菜の事を温かく見守っていた。そんな若菜の姿を見ながら参列者は次々と焼香を済ませていく。麗子は邪魔にならないよう端に移動しいつまでも若菜を見つめていた。
 式の進行が滞りそうだ。進行役も分かってはいるが言葉をかけずらい。困惑している空気を読み麗子が若菜に歩み寄り体を起こす。
 「若菜、しっかりなさい。そんなんじゃ静香ちゃんも不安で天国に行けないでしょ?」
若菜は麗子に寄り添われ席へと戻る。
 「んわぁぁぁん!先輩ぃぃぃ!」
席についても取り乱す若菜。麗子は周りの迷惑を考え若菜の体を支えながら控え室に行った。途中、マスコミの人間を署員がブロックしてくれた。注目の事件だ。マスコミの数がそれを現している。どこから漏れたのかは分からないが、静香が亡くなった経緯も知っているようだ。その当事者の若菜のコメントを求めて無数の問いかけとマイクが差し出されたが、それを署員が必死で制止した。そんな騒然とした雰囲気も若菜は全く気づかぬほどに気持ちが高ぶっていたのであった。
 若菜の脇にピタリと座り肩を抱いて介抱する麗子。若菜が泣きたいだけ泣かしてやった。肩を震わせながらいつまでも泣いている若菜。泣き止む気配は全くなかった。麗子はずっと若菜を優しく包み込んでいた。母親だからこそ言葉をかけるタイミングを知っているのであろう。若菜が自分の言葉を判別できる機会を感じた時、穏やかな口調で囁くように言った。
 「お父さんが亡くなった時、今の若菜と同じ様に静香ちゃんも泣いて悲しんでたわ…。自分のせいでお父さんを失ってしまったという自責の念から、それはもう見ていられなかったぐらい。私に向かって何度も何度も謝ってきた。でも私には何で静香ちゃんが私に謝るのか分からなかったわ。」
麗子は若菜が何でもいいから言葉を発するように言葉を巧みに操る。
 「…どうして…?」
思惑通りに口を開く若菜。
 「だって、お父さんは静香ちゃんを守りたいって思ったから身を挺して静香ちゃんを守ったんでしょ?その結果静香ちゃんが無事でいられたんだから私は良かったと思った。お父さんが命をかけてまで守ろうとした静香ちゃんが無事でなかったら私は悲しかったわ?そして自分の命をかけてまで守りたいって思った静香ちゃんが必死で壁を乗り越えようとして、見事乗り越えてあんなに立派な刑事さんになったんですもの。お父さんもきっと喜んでたわ。」
穏やかな笑みが若菜の動揺を少しずつ消し去っていく。


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