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LADY GUN
【推理 推理小説】

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静香の命-10

 肩が震える意味は先程までの震えと意味が違う。若菜の顔は怒りに満ちていた。
 「そんな言い方…ないじゃないですか!!」
若菜は泰子につかみかかる。
 「な、何するのよ!?」
揉み合いになる。
 「先輩は…先輩は…、世の中の平和の為に一生懸命頑張ってたんです!先輩は最後まで自分を犠牲にして弱い者を守ろうとしてくれたんです!それなのに…、あなたなんか親じゃない!あなたみたいな酷い人、絶対親じゃない!!」
若菜がそう叫んだ瞬間、泰子の様子が変わった。顔から力が抜けた。大きく息を吐いた泰子は若菜の目を見据えて低い声で言った。
 「わかったような事言ってんじゃないわよ!」
いきなり怒りを露わにした泰子。若菜はビクッと体を震わせた。
 「確かに酷い親だよ、私は。小さな子供を置き去りにして姿を消したんだからね。あなたにその理由を話すつもりもないし、分かってもらおうとも思わない。だけど一つだけ言える事がある。それは、お腹を痛めて産んだ子供が死んでなんとも思わない人間なんていないんだよ!!」
涙を浮かべながら怒鳴りつけるように言った。
 「私はいつか謝らなきゃと思っていた。許して貰おうとは思っていなかった。それなのに…。正直に言うわ?どうしてあなたなんかの為に静香が死ななきゃならないのよ!!教えてよ!ねぇ!?」
若菜の腕を掴み激しく揺らしつける。
 「私を見る静香の目には許し難い怒りを感じた。こんな事になるなら早く謝っておけば良かった…。ねぇ返してよ…。静香を返してよ!!」
泣きながら訴える泰子に若菜の気持ちが揺さぶられる。
 「ごめんなさい…。ごめんなさい!!私が死ねば良かった…!」
泰子は悔しそうに若菜の腕を掴みながら地面を向き嗚咽し続けた。若菜の涙は泰子の髪に流れ落ちる。
 暫く泣き続けた後、泰子はゆっくりと顔を上げる。
 「ごめんなさいね…。あなたが死ねば良かっただなんて取り消すわ?死んでいい人間なんていない。いないのよ…」
 「そんな事ないです…。私がしっかりしていれば先輩は…」
 「その静香もあなたのお父さんに命を助けられたんじゃない。あなたはお父さんを誇りに思ってるでしょ?私は静香を誇りに思う。だからあなたも誇りに思われるような刑事になりなさい。ね?」
 「でも…私は先輩の命に値する人間では…」
 「そういう人間になればいいのよ。なるかならないかはこれからのあなた次第よ?」
 「自信…ないです。」
 「静香の為に、そういう人間になりなさい。ねぇ、本当の親不孝って何だと思う?」
 「親不孝…」
答えが浮かばない若菜。そんな若菜に泰子は寂しげに言った。
 「本当の親不孝って言うのは…、親より先に死ぬ事よ、ね。」
若菜の胸に重く響き渡る。
 「お母さんに親不孝、しちゃいけないわよ?分かった?」
答えられない若菜。泰子は若菜の髪を撫でた。
 「ごめんなさい、私は静香に伝えなきゃならない事がたくさんあるの。2人きりにさせてくれるかな?」
 「はい…。」
若菜は深くお辞儀をして歩き出した。遠くから泣く声が聞こえた。
 「静香…ごめん…ごめんなさいぃぃ!!」
泰子の声が胸に深く突き刺さる。その瞬間、若菜の体に激しい電流が迸る。
 (私は自分の事ばかりしか考えていなかった。悲劇のヒロイン…?馬鹿じゃん!?腹が立つ…。私は自分に悲しんでるだけ…。悲しんで逃げ道を作っているだけじゃないの…。私はたくさんの人を悲しませてしまった。先輩のお母さんがこんな私を励ましてくれてる。娘の命を奪った私を励ましてくれてるのにこのまま逃げる訳にはいかない…。私は…私は…私は…!)
若菜の目に力が蘇る。若菜は呪文のようにブツブツ呟きながら、それを見て無気味がられる事も恐れずに次第に力強く歩き出した。前へ、前へ…。


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