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蜘蛛娘 狂った男・商家の娘
【歴史 その他小説】

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蜘蛛娘 狂った男・商家の娘-1


「おい!気が触れたのがこっちに来るぜ!」
商店に駆け込んできた男が声を荒げる。

蜘蛛の姿の蜘蛛娘は天井裏で、糸を通して聞いていた。
蜘蛛娘は、八つの赤い目を曇らせる。

(よもや…)



蜘蛛娘は、娘の姿に戻って、
店の前で、多勢となった野次馬に混じる。

「来たぜ。確かに狂っていやがる」
「あぶねえ。刀を手に縛り付けていやがるぜ」

向こうから、立派な体躯の男が、
口許から泡沫を垂らし、
重い足取りで店に向かって真っ直ぐやって来る。

「おい!同心はまだ来ねえのかよ!」
「駄目だ!他所の火事でそれどこじゃねえ!」

騒ぎを聞きつけた商家の娘が、表に出てくる。
「あっ!蜘蛛娘様っ!…ひいっ!人攫いの鬼の武芸者!」
娘は家人に支えられ、卒倒せんばかりである。


武芸者は涎を垂らし、日の光を恐れるように顔を歪め、
蜘蛛娘の姿を認める。

「犬の糞から、狂い病を貰ったか。
狸の方も駄目だな。愛嬌のある奴だったが…」

「判っておるわ!俺は助からん!
こうなったら苦しんで死んでいくだけだ。
野で、狂い犬を見てきているからな。
店で暴れれば、お前が現れると思ったわ!」
「狂っても、余計なとこだけ頭が回りよる!」

「邪魔されぬよう、途中で火を点けてきた!」
「気違いめ!」

「苦しい、苦しいぞ。
俺を此の様な身体にした、お前が憎い!」
「他人を拐かして、狸に咬まれたのであろう!
自業自得と知れ!大馬鹿者が!」


転遷!
武芸者は恐ろしく凶暴になって、
魂を凍らせんばかりの大音声を上げて、
抜き身の刀を烈火のごとく振り降ろし、蜘蛛娘に迫る。

蜘蛛娘は、
逃げ惑う野次馬の間を、ましらの様に縫い、
他人を蹴飛ばし、掴んで、盾にして兇刃を避けて廻る。
八つの目で剣先の動きを捉え、
人には出来ぬ動きで大混乱のさなかを横っ跳ぶ!

武芸者の抑えの効かぬ馬鹿力で、
人が、ばさばさと切り飛ばされ、
血しぶきが昇り、手指が飛び、臓物がぶちまかれ、
辺りは酸鼻を極める修羅場と化した。

死を覚悟した、
鍛え抜かれた武芸者の勢いを、余人には止められぬ。


「此れでも喰らえ!」
蜘蛛娘は用意してあった手桶の水を、
手桶ごと武芸者に向かって投げ付ける!

「ぎゃあー!」
武芸者は、酢でも掛けられたがごとく苦しみもがく!

一閃!
蜘蛛娘は土塀を蹴って、足元のおぼつかぬ武芸者の背後に飛んで降り、
刀を持つ手を軒柱に、頸に糸を巻き付け、
背中を蹴り倒す!

「わきまえぬ馬鹿者め!死ぬがよい!」
「ぐぎぎっ!」
蜘蛛娘は、
背中を押す脚に渾身の力を込め、武芸者を縊り殺す。
武芸者は口から穢い泡を出し、顔を赤黒くして息絶える。

「狸の方が余程価値があるわ!」



蜘蛛娘は商家の、娘の寝所で、娘と共寝をしている。

「折り入って願いが有る」
「何でも仰って下さい。
あなた様は一度ならず助けて下さいました」
娘は優しく蜘蛛娘の髪を手櫛で梳く。

「少しばかり、精を吸わせてもらいたい。恐ろしい思いはさせぬ」
「…どうぞ好きなだけ吸ってくださいまし。命を救われるとはそういうことです」
「有難い。良い思いをさせてくれようぞ」

娘は、子供姿の蜘蛛娘を、包むように抱きしめ、唇を合わせる。
二人は長きに渡って、裸で絡み合うのであった。



蜘蛛娘は、疲れて眠る娘の横で思い耽る。

(化ける狸や、手練れの武芸者同様、私も時勢に添わぬのやもしれぬ…

この娘は優しい。この人くらい、護ってもよい)


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