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蜘蛛娘
【歴史 その他小説】

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蜘蛛娘-1

親だったか、産み付けられた餌だったかは知らぬ。
喰い、残っていた物が女の髪だったから、
人から産まれたのであろう。



我ら兄妹達は、腹を空かせていた。
自分達で獲物を獲らねばならなかった。
余りに飢えると、弱い兄妹から喰った。

身体の小さな自分の番になる前に離れ、
さ迷い、野垂れているところを、
偶さか、またぎの男に拾われた。

こうして獣の道をも、外れる。



男は器用で頭が良く、山奥の独り暮しを不便なくこなしていた。
男は慰みに、
私に言葉を教え、簡単な勘定を教えた。

長じて、私は糸を出すようになる。
世を捨て一人、山の深奥で暮らすこの男も、
もはや、真面な人ではなかったのやもしれぬ。
糸を出し、身のこなしの軽い私を不思議とも思わず、
またぎの男は私を使って獲物を獲るようになる。

男は私に、獣の通る道を教え、足跡やふんの見分け方を教えた。
男と私は罠を仕掛け、獣を獲った。

罠に脚を取られ、
己の足首を引き千切りながら暴れる獣に、
止めのひと突きを入れるとき、
私は興奮し、血を滾らせた。

男は仕留めた獣を丁寧に断ち割り、皮を剥ぐ。
粗末な小屋で男は作業し、飯を作った。
男がこさえた物は美味かった。

男は昔、端武者だったが、
嫌気がさして出奔し、またぎに弟子入りしたと言っていた。



さりとて人の世と全く縁を切ることもできぬ。
男は時として、山のように荷を背負い、
私を連れ、里に下りる。
獣の肉を燻した物や、毛皮を鞣したものと、
米、味噌、薬味などを替えた。

男は腕が立ったらしく、
肉や毛皮は仲買人に高額で取り引きされた。

そして男は然るべき場所に赴き、
私は小遣いを持たされ、外で待たされた。
戻ると、男からは女の匂いがして、
私はえも言われぬ心持ちになった。



そうしてまた山奥に戻る時、待ち伏せをくらう。
男の懐中に目を付けられ、狙われたのだ。

私は糸を飛ばし、
驚く来襲者達の頭上を越えて、山林に飛び込む。
男は枝払いの鉈を振るって、血みどろになって闘うが、
多勢に無勢、数が多すぎた。
男の懐にはそれだけの金子があったということだ。

男は昔、武人だっただけあって奮戦するが、
それがかえって仇となり、無惨な死に様となる。

仲間が斃れて却って分け前が増えたと、無頼どもの声を聞く。



男と袂を分かつ。
男は死に、私は生きながらえた。
感慨は無い。
それは人が持つべきものだ。

私は里に戻り、女を襲った。
獣に比べれば人などのろい。
糸を投げ、脚を縺れさせ、
赦しを請い、泥だらけになって這い逃げる女に縋り付き、
薄い喉元を喰い破り、
初めて人の精を吸った。

人の精を吸う事を覚えると、獣の肉では物足りなくなる。
堪らなくなると里に下り、
女を絡め取り、夢中になって搾り取る。

人を喰えば其処には居られぬ。
親に追われ、子に追われ、連れ合いに追われる。

追われれば返り討ちにするしかない。
山に誘い込み、
足元に糸を張り、夢中になって迫る追手を転げさせ、
糸を飛ばして動きを封じる。

下手な罠など掻い潜る、獣などより余程容易い。
動けぬ追い手は、恨みの言葉を吐いて、同じ末路を辿る。
解ってくれば、山に於いて人など恐れるものではなかったのだ。

山に逃げ、獣を追い、また、見知らぬ里に下りる。



そのうちに、女に羞恥を与え、
程々に精を吸えば、追われることも無いことを独習する。
また、辱しめを受ける女の精は真に甘美である。

不思議なことに、人の精を吸うと、歳をとらない。
私は子供姿のまま、当ての無い旅を続けた。



(偶々人に拾われたが故に、言葉を覚え、人の味を覚えてしまったのだ。

獣のままだったら、このように考えずとも生きられたのやもしれぬ。

人と獣の狭間の私はどうすれば良いのだ。

思い返せば、
男と獣を追っていた頃が仕合せだったのやもしれぬ。

如何に…如何に…)


幾星霜が流れた。


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