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もう君に会えない
【大人 恋愛小説】

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どっちつかずの気持ち-19

蒸し暑いはずなのに、背中に寒気が走る。

うるさいくらいの雑踏の中で、久留米さんの乾いた革靴の音だけがやけに響いて、それを聞いていると、心臓が早鐘を打ち鳴らし始めた。


「な、なんでこんな時間に……」


「ん、県庁で研修だったんだけど、思ったより長引いてさ。

んで腹減ったから、向こうで飯食ってたらこんな時間になっちまったってわけ」


でも、久留米さんはいつもと変わらない彼のままおどけて笑うだけ。


そうだ、今日は久留米さんの姿が午後から見えないと思っていたけど、県庁に行くって言ってたっけ。


でも、そんなことは今はどうでもいい。


それより……。


塁と一緒のとこ、絶対見てたよね。


よりにもよって、一番見られたくない人に。


「ラーメン食べてきたんだけどさ、大失敗。

このクソ暑いのに店の中、扇風機しかなかったんだ」


それなのに、久留米さんはいつもと変わらない態度で、いつもと変わらない当たり障りのない話をしてくる。


塁のことに全く触れて来ないことが、かえってあたしを惨めにさせた。


身体だけの関係は止めるって言ったのに未だ続けていたあたしを思いっきり罵ってくれた方がどれだけ救われたか。


何も言わないってことは、あたしが何をしようが興味がないってことなんだ。


わかっていたことだけど、久留米さんはこんな場面を見ても動揺せずにいつも通りで。


あたしの存在は彼にとって取るに足らないものだと思い知らされると、自然と眉間にシワが寄るのがわかった。


「……さっき見てたの、何も言わないんですか」


気付いたらあたしは彼を睨みつけるように見上げていた。





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