ソレゾレノケツイ-1
南の大陸にある巨大な砂漠……の中にある砂漠都市エザル。
こんこんと湧き出る泉を中心に栄える都市の外れに、治安の悪い地域があった。
「不気味だよなぁ」
廃虚の地下室で1人の男が呟く声が妙に響き、一緒に居たもう1人の男が自分の腕を抱きながら身を震わせた。
「やめて下さいよ〜ただでさえ薄気味悪い場所なんですから〜」
情けない声で懇願する男は、ガタイの良い長身の男。
その男は最初に呟いた年かさの男の背後に隠れるように小さく縮こまっていた。
「身体はデカいくせに肝の小せえ男だな、お前は」
呆れた声で振り向いた年かさの男は、今にも泣き出しそうなガタイの良い男の頭を小突いた。
「んな事言ったって……苦手なんですよ……こう、幽霊とか怪奇現象とか」
魔物や悪党は平気だが、見えないものや理解出来ないものは苦手。
「こりゃ、幽霊でも怪奇現象でもねえだろ?」
年かさの男は顔を前に戻して目の前にある光景を見た。
そこには地下室いっぱいに蔦を広げた植物。
成人男性の胴体程もある蔦には蕾が沢山ついていた。
そして、その蔦の中心部分には人間の様なものが埋まっている。
おおぉぉおぉおおおぉぉ
人の様なものからはずっと呻き声が漏れていた。
「いや。無理です。人が植物に埋まってる時点で怪奇現象です。むっちゃ怖いです。帰って良いですか?!」
ガタイの良い男は年かさの男の背中に完全に隠れて薄目で植物の方を伺う。
「全く……ただの植物の見張りに何をびびっておるんだ。情けない」
見た目を除けば植物鑑賞だ。
「動く訳でも無いだろうに……」
年かさの男がそう言った瞬間、ガサリと葉の擦れる音がした。
「ひいぃっ」
ガタイの良い男は頭を抱えてしゃがみ込み、年かさの男は腰に挿してあった剣を抜いた。
ガサ カサカサ
葉擦れの音は地下室に響き、年かさの男もさすがに身を震わせた。
しかも、さっきまで聞こえていた呻き声も無くなっている。
「おいっ退却だ。直ぐ隊長に報告するぞ」
「は、はいっ」
剣を構えたままジリジリと後退りする年かさの男の足元で、太い蔦が波打つように動いた。
「ぎゃあぁっ!」
「うるさい!走れ!」
年かさの男は腰を抜かしたガタイの良い男を抱え、逃げるように地下室を後にした。