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真奈美の日記
【獣姦 官能小説】

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目覚め-9

――時刻はおよそ2時間前へと遡る。

ざわざわと、時折吹いてくる風が木々の枝葉を揺らしていく。
うっそうと木々が生い茂り薄暗くなった森林公園の森の奥。その一角に、伸びた雑草で覆われた空き地があり、朝日が地上まで射し込んで輝いている。
その一角はフェンスで囲われ、立ち入り禁止の札がかけられている。中心には、コンクリートの壁に木造の、小屋のような朽ちた建物が鎮座していた。
その小屋の入り口は戸がなく開け放しの造りで、いきなり二手に分かれている。ただ、壁で仕切られていて外からは中を覗くことが出来なくなっている。
汚れ、ボロボロに朽ちて雑草やツタに覆われているが、その形から、その建物は公衆トイレであろうことが容易に想像できる。

もう何十年も前から使われなくなり、廃墟と化してしまったトイレ。
だが、今は誰もいないはずのそこから、何やら熱い息遣いのような声が微かに漏れている。

フン、フン、ハフッ、ハフッ……

電気は止められ、窓や入り口は草やツタで覆われ、薄暗い建物の中。
床や壁は、ヘドロのようなものが撒き散らされ、塗りたくられ、染みついている。
ドアが外れ、衝立で仕切られただけのようになった大便器が7、8個程度は並んでいる。
その向かいは、壊れかけた10個ほどの小便器が壁に並んでいるのが見える。
いずれの設備も茶色く変色し、ホコリが溜まり、ちり紙や固形物がこびりついて汚れている。

「ふあぁ……よく寝た」

すっかり熟睡した真奈美は、徐々に目を覚まし始めたところだった。

コツン、コツンと、何かが彼女の背中やお尻をつついている。

「うんん……誰……?」

じゅるり、じゅるりと、何やら柔らかくて表面のざらついた何かが、真奈美の太腿やお尻を這い回っている。

(うふん、くすぐったい……)

何だか気持ち良くなって、夢心地でそのヌメヌメした感触を味わっていた真奈美だったが、暫くしてその感覚が背中へ移動してきた時だった。
着ていた服が引っ張られ、持ち上げられ、背中でビリッ、ビリリッと音を立てて引き裂かれていった。

(な、なに……? あれっ、ここは?)

冷たくじっとりと湿った固い床、周囲を囲む壁、便器……薄暗さに目が慣れてきた真奈美は、ようやくそこが、汚れて朽ちたトイレの廃屋だと理解した。
そして、今背筋を伝い、うなじへと上ってきた生温かい軟体動物の正体、それは……
ハフハフと荒い息遣いで吐息を吹きかける先端、その下に大きく裂けて牙を剥いた顎、その中から忙しく出入りする赤黒いナマコのような肉塊。
そいつが自分の頬や唇を舐め取り、押し入ってきた時、ようやく真奈美は自分が置かれた状況を悟った。

「……うぶぅ!」

分厚くゴムのように柔軟かつ強靱でしなやかなその獣の舌は、いやおうなしに真奈美の唇をかき分け、口内へと押し入って来る。
同時に、顎からねっとりと滴る唾液が、這い回る舌で彼女の頬や唇に塗されていく。

(うぐ、臭いっ!……この臭い、間違いなくワンちゃんの口臭……)

まともに顔面をべしゃべしゃと舐られると、鼻の穴や口腔内にも唾液が塗り込められる。まくれ上がったまぶたの下にも唾液が溜まりを作る。
鼻の先端や顎の先から、泡混じりのやや白濁した唾液が、つららのようにドロリと垂れ下がった。
真奈美はうつ伏せの状態から、ごろりと仰向けになり、腕を突っ張って上体を起こした。

(ここ……どこかしら? たしか私、公園へジョギングしに来たはずなんだけど……)

急速に意識が覚醒し、五感が戻ってくると、何やら糞尿と生ごみが混ざったような腐臭が漂っていることに気付いた。
照明は壊れ、窓と覚しきところは外から植物に覆われ、殆ど日の光が入って来ない。
それでも、壁には無数のひび割れが走り、雨漏りで水の伝った跡が茶色く鍾乳洞のように残っている。
大便器は和式で、水が出なくなっても誰かが利用したのか、大便が山のように詰まっている。
よく見ると、周りの壁や小便器、その下の溝には、何十匹ものゴキブリが大小取り混ぜ、這いずりまわっていた。
その生理的なおぞましさから来る恐怖は、たちまち真奈美の体中の触覚を鋭敏にさせた。
床に触れる脚や尻に伝わってくる固くひんやりと湿った床、腕や胸のぬめっとした感覚、手のひらに付着した固形物混じりの粘液……
真奈美は、そのおぞましい感覚に、恐る恐る自分の手のひらや脚の膝に視線を落とした。
すると、そこには何匹かのゴキブリやゲジゲジといったグロテスクな虫がすり潰され、緑色や黄色混じりの肉汁となって付着しているのが眼に映った。

「いっ、いやああーっ!」

すっかりパニックに陥った真奈美は、全身に力を込めて、ありったけの声を絞り出した。

「誰か! 誰か助けてっ!」

しかし、恐怖に引きつったその声は震えて擦れ、廃屋の内部にこだましたが、外を取り巻く森林が遮り、誰かに届くことは無かった。

「だ、誰か……ママ……」

淀んだ絶望的な諦めが脳裏を支配し始めると、真奈美は段々と元気を無くし、力が抜けてガックリとうなだれた。

「いやああー…… いやだあ……もう、いやああああ」

うなだれた真奈美の眼には、腐敗し糊状になった糞尿に混じって、ゴキブリやウジ虫などの潰れて擦り切れた死骸などが、自分の胸や腹、太腿や腕にまで、べったり付着している様が目に飛び込んできた。
また自分がうつ伏せに倒れていた、腐った汚物が堆積した床も同様、その上を引き摺ったような跡が無数に刻まれ、所々に内臓をはみ出させたゴキブリがもぞもぞと這い回っている。
そして真奈美の正面には、全身を筋肉で固めたような大柄で逞しい体躯の、そして赤く眼を光らせた悪鬼のような形相をした猛犬が、今にも飛びかからんばかりに仁王立ちで構えていた。


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