投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

取立て屋
【その他 その他小説】

取立て屋の最初へ 取立て屋 0 取立て屋 2 取立て屋の最後へ

取立て屋-1

俺は原井と言う男のアパートを見つけた。
チャイムを鳴らすと幸い男は在宅だった。
「えーっと、原井升造さんですか? 荷物が届いてます」
髪がぼさぼさの太った男が無愛想に顔を出した。
「どこから?」
「佐々木食品というところからです。商品見本在中と書いてますけれど」
「じゃあ」
原井は黙って手を出す。受け取る積りだ。
「ここにサインしてください」
俺はその家を出た。1時間だけ余裕を見てまた来る積りだ。


俺は大学出のインテリが大嫌いだ。
だが、いくら嫌いでもシノギに行き詰まれば、そいつの教えを請うことになる。
その眼鏡野郎は鎌田といった。二重瞼の甘いマスクをした生っちろい奴だ。
「篠崎さん、もう普通の取立て屋じゃやっていけない時代なんですよ。
借金踏み倒して自己破産っていう逃げ道がある以上、もうお手上げってなもんでしょう」
どこかにやけた感じで友達にでも話すように馴れ馴れしい口だ。
「闇金だって、過払い金がどうのこうのって言われたら、逆にこっちが搾り取られる羽目になるでしょう?」
「だからどうだって言うんだ?」
「だから新しい分野に目をつけるんですよ」
鎌田はコンピューターの画面を指差した。何か名簿が一覧表になっている。
「なんだ、これは?」
「僕がこの1年間苦労して集めた、ネット通販の料金未払い者の一覧表ですよ。
大小の規模の各社から集めた名簿です。殆ど無料で提供してもらいました」
「無料で?! 二束三文じゃなくて無料でか?」
「踏み倒された所の中には貧しい零細企業だっています。
牡蠣養殖をしていて、品物を送ってもそれきり『なしのツブテ』という客が結構いて、泣かされている漁師もいました。
新鮮な生牡蠣を食い放題に食って、あとは知らん振りですよ。
中には餓鬼のくせに250万円も踏み倒した子どももいました。
払う気が全くないんですね。絶対金を取りに来ないと高を括ってるんです。
そういう不届きな人間にお灸を据えるために名簿を集めているんだといえば、喜んで提供してくれました。」
「じゃあ、元手はタダか」
「タダどころかお金を貰いました。会費という形で」
「会費? なんの会費だ?」
「あらゆる通販会社から集めたブラックリストを僕がデーターバンクに持っている訳です。
ですから名簿を入力して照会してくれれば、商品を発送する相手がリストに載っている人間かどうかすぐ分かるのです。」
「なるほど、闇金のリストと同じ訳か。だがそれだけじゃあ大した儲けにはならないだろう」
鎌田は一枚の紙を手渡した。
「これは原井升造という常習犯に当てた通知です。見て下さい」
俺はそれを見た。原井が今まで注文して未払いになっている商品と代金を合計した額を書いてある。
その後、ちょっとした脅し文句が書いてあった。
『あなたの名簿は殆どの通販業者に渡っているので、もう買い物はできません。
そればかりでなく、この取立は当方に任されていますので、即日支払わない場合は強硬手段に移る準備があります……』
「ここで普通の集金人じゃないってことをしっかり知らせてやるんです。
普通の人間は大抵びびって金を振り込みます」
「振り込まない奴がいたらどうするんだ」
「そういうしぶとい奴には強硬手段に出ます」
鎌田はへらへらと笑った。俺はその笑い顔にイラッとして殴りたくなったが、我慢した。
「だけど強硬手段と言っても、裁判所に訴えて差し押さえとか面倒じゃねえのか」
「この方法は我々が足を運べる都内に限られてます。
他府県のしぶとい滞納者には全国に散らばっている同じ系列の組に名簿を送ります。
こまめに取り立てれば、若い者の小遣い銭くらいにはなるでしょう。
こちらとしても他の組へのお歳暮代わりになりますし。損にはならないでしょう。
さてここからは非合法です。篠崎さんたちの出番なんです。」

1時間後俺は原井のアパートのチャイムを鳴らした。返事がない。
舎弟の田中が得意のピッキングでドアを開ける。
俺たちが踏み込むと原井は散らかった居間の床でぐっすり眠っていた。
俺達は用意した大きなトランクに原井を入れると運び出した。
残った男に部屋は散らかさないようにして、証拠品と金目の物を捜させた。
出た後また田中がピッキングで錠をかける。


鎌田は小さな焼き菓子を取り出した。なんの変哲もない焼き菓子だ。
「これには強力な睡眠導入剤が入ってます。」
「なにぃ……?」
「これを試供品として、一向に払おうとしない面の皮の厚い奴に送るんですよ。
そして眠らせた後にその体を頂いてしまおうって訳ですよ」
「頂いてどうするんだ?」
「篠崎さん、決まってるじゃありませんか」
鎌田は生っちろい顔を歪めて笑った。


俺は車で原井の体をある場所に運んだ。
いわゆる『臓器屋』というハイエナのような奴らだ。
熟睡した状態の原井を彼らは300万円で買い取った。
鎌田の話しだと500万円くらいは取れるだろうと言っていたが、足下を見られた俺にはそれ以上は無理だった。
奴らは原井の体を外国に持って行って、そこで解体して各臓器に分けて販売するのだ。

1ヵ月後、アパートの管理人が原井の家に入り、彼が家賃を払わないままどこかに夜逃げしたと結論した。
もっとも大家がそう思ったときには、本人はばらばらになってそれぞれ違う人間の体の一部になっている訳だがな。
まあ、品物を買って踏み倒すような奴だから、俺には良心の呵責はなかった。
もともとシノギをするうえではそういうものは邪魔なだけだ。
あんたらも通販で何かを取り寄せた時には支払いは速やかにした方が良いぜ。
そうしないとお宅に焼き菓子が届く羽目になるってことさ。
金を取り立てられるうちはハナってなもんだ。
違うものを取り立てられたら、この世の見納めだぜ。ふふふ。


         完 


取立て屋の最初へ 取立て屋 0 取立て屋 2 取立て屋の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前