アイノカタチ-8
「ランス様……水の匂いがします……」
テオとは反対側のランスの隣に膝をついたリュディが、風に煽られる緑金の髪を片手で押さえながら伝える。
「水、ですか」
リュディに振り向いたランスは、一瞬眩しそうに目を細めた。
「風にさらわれそうな貴女も美しい♪リュディヴィーヌ嬢♪」
べし
いつもの様にべた褒めするランスの顔を、いつもの様にリュディの手の平が塞ぐ。
「風下です……」
ランスの顔を塞いだままリュディは風下に目を向けた。
その横顔は少し赤く染まっている。
「風下ですか?良く分かりましたね」
「私の中の吸血蔦が……水を求めていますので……」
「ああ、吸血蔦は水が豊富な土地の植物ですからね」
リュディに顔を塞がれたまま、ふむふむ頷くランスからリュディはそっと手を退けた。
「ベランナも……水分を求めます……」
「そうですね、じめじめした所が好きですから」
ランスはリュディが示した風下に目を向けた。
「あ……あれか?」
ベランナの群生らしい赤い影が見え、ランスは更に身を乗り出す。
「あ」
身を乗り出すのは良いが、手を出してはいけない。
手を出したその先には地面が無いのだから。
「ランス様!」
「わっ!!バカっ」
ランスもろとも崖に吸い込まれるノアの腕を、テオは力任せに引く。
おかげでランスとノアは引き上げられたが、勢い余ったテオは反対に崖へ向かって振られた。
「げ」
「きゃあぁっテオ!!」
リュディの悲鳴が妙に大きく聞こえ、青い空が目に映る。
(やっべ)
浮遊感が非現実的なのに身体にかかる重力がリアルに感じた。
頭の中に次々と色んな映像が流れる。
魔物の姿の父親の銀色の毛、母親の赤い眼、黒い羽が舞い散る中に居る黒い鷹、ファンの城内で駆け回る小さいランスとノア、緑色の光の中のリュディ……そして……。
(……パルっ!!)
まだ、謝ってない。
母親譲りの赤い眼を見開いたテオは、空中を落下しながら何かに向かって必死に腕を伸ばした。