アイノカタチ-7
30分程進むと、地面が大きく裂けている場所に出た。
「地図によるとここら辺だ」
ランスがピィの身体を叩いて進行を止めさせる。
ピィから飛び降りたテオは、地面に両膝をついて裂け目を覗き込んだ。
「う……わ……底見えねぇ……」
裂け目から風が吹き上げ、テオの短い黒髪を逆立てる。
「ベランナはこういう崖っぷちに生えるんだよ。ノア、視力を上げてくれないか」
テオの横に並んだランスは、ノアに視力を上げる魔法をかけてくれるように頼んだ。
「御意」
ノアはランスの後ろから手を回して彼の両目を塞ぐ。
「…… ‥‥ 増 眼 」
ブツブツと呪文を唱え、魔法が発動するとノアの手がポゥっと光った。
「ぁっ……つぅ」
ランスの肩がピクリと震えて小さい声が漏れる。
「相変わらず下手だね」
「申し訳ございません……ゆっくりと目を開けて下さい」
文句を言うランスに、大して悪く思ってない口調で言ったノアはそっと手を退けた。
ランスの閉じた瞼がゆっくりと動いて上へと上がっていく。
「……まあ、上出来」
下手くそでも出来は良い、と褒めたランスにノアはうやうやしく頭を下げた。
「さてと……」
ランスはぐっと身体を乗り出して裂け目を見る。
「風向きと日当たりを考慮して……と……あっちかな?」
更にぐぐっと身を乗り出したランスを、ノアがさりげなく支えてそれをテオが助ける。
(お前も大変だな)
こそっと耳打ちしたテオにノアは苦笑を返す。
(夢中になると周りが見えなくなるので困ります……これで国王が勤まるかどうか心配でなりません)
周りが見えなくなるのは国王的に致命的だ。
(国王稼業に夢中になりゃ問題ねぇんじゃね?)
(そう、上手くいくと良いのですが)
「あはは、周りは見えてなくても耳は聞こえているよ」
ランスはベランナを探しながらコソコソ話している2人に笑った。
「心配無用だよ、ノア。民の為の植物学だからね。大事な所は外してないつもりだよ?」
「失礼致しました」
口では謝るノアだったが、顔は「本当か?」という疑問だらけの表情。
テオは2人の関係が面白くて笑いを堪えるのに必死だった。