アイノカタチ-3
次の朝、要塞から少し離れた場所……黒海側の方でパルは大きく深呼吸をした。
(久しぶりぃ〜♪)
半年振りに魔物になる……妙に緊張するし、期待もしている。
昂る気持ちを抑えて力を解放しようとした……その時。
「こんなトコに居たのか」
「んにいっ?!」
居る筈の無いテオの声がかかり、パルは文字通り飛び上がった。
「て、テオ?!」
「おう。横に居ねえから探した」
(何で探すの?!)
欠伸をしながら近づくテオに、パルは眉をしかめる。
「何で探すんだ?って顔だな?それはだなぁ……」
朝露で濡れた草を踏みながらパルの前まで来たテオは、ニッと笑って少し屈んだ。
「おはようの挨拶がしてぇの」
至近距離でそう言うと、チュウっと何とも可愛いキスをする。
「おはよ」
「お……おはよ」
(ナニこれナニこれナニこれナニこれ)
きゅうっと胸が締め付けられて、心臓が落ち着かなくなる。
急速に体温が上がり、熱が顔に集まった。
「顔、赤い」
にへぇっと笑ったテオも、うっすらと赤い顔をしている。
「何してんだ?」
テオはスッと離れて周りを見渡した。
これと言って特に何も無い。
「えっと……」
(魔物になりにきたんだけど……)
何故かパルは本当の事が言えず、視線を泳がした。
「さ……散歩?」
適当な事を言って誤魔化し、要塞へ足を向ける。
「ふうん?なんかあったか?」
テオはパルの後を追いかけ、横に並ぶと速度を合わせて歩いた。
「おっきな茸とか……リュディとかランスが喜びそうなの」
「はは、そっか」
テオはパルの横を歩きながら彼女の手をキュッと握った。
「んに?!」
「手ぇ冷てぇな」
冷えたパルの手を擦るテオは何だか嬉しそうな顔。
(だから、ナニこれ)
落ち着かない身体を持て余し、パルの歩調は自然と速くなるのだった。
要塞に戻るとパルはリュディに用があるから、とテオと別れた。
そのままダッシュでリュディの部屋へ行き、バーンとドアを開ける。
「……おはよう……」
リュディは目をパチパチさせながらも、一応朝の挨拶をした。
「お、おはよ」
ゼーハーと息を切らしたパルは、ドアを閉めるとそれに背中をつけてズルズルと腰砕ける。