アイノカタチ-2
「う……卑怯者には成りたくないなあ」
がっくり項垂れたランスはそっとリュディに視線を落とした。
綺麗に化粧を施されたリュディは、当たり前だが旅の中では見られなかった美しさ。
ファンの王妃に迎え入れても、誰も文句のひとつ言えやしない。
「……って、嫌だなあ……私はやっぱり王族なんだなあ……」
周りには身分抜きで自分を見てくれ、と叫ぶくせに自分が他人を見る時は、王子である自分に相応しいかどうかで見る。
「それが王族と言うものです。ですが、ランス様は自分に相応しい『身分』で見ている訳ではないでしょう?」
『身分』を第一に見る王族が殆どなのに、ランスは少し違う。
自分を高めてくれるかどうか、つまり『能力』や『本質』を見るのだ。
「貴方が普通の王子なら、ボクはこんな苦労をしてまで貴方個人に仕えたりしません」
ファンに仕えているのではなく、ランス個人に……そう言ったノアにランスは、にまぁっと笑った。
「リュディヴィーヌ嬢を抱いてなければ今すぐ君を抱き締めてキスしたい気分だよ、ノア♪」
「ご遠慮致します。ですから、ボクの信用を裏切らないで下さいね。リュディさんに本気で惚れていらっしゃるなら尚更です」
話をはぐらかすな、とノアはランスにしっかりと釘を刺す。
「はいはい」
「はい、は1回で宜しいです」
「は〜い」
「伸ばさない」
そんな会話をしつつ歩みを進め、リュディにあてがわれた部屋に到着。
ノアが開けたドアをランスがすり抜けると、ノアは小走りでランスを追い抜きベットを準備する。
「はあ〜名残惜しいなあ」
ランスはリュディをベットに降ろしつつ、ついでにリュディの頬にすりすりと頬擦りした。
「ふっ……ぅ」
するとリュディが甘い息をついたので、もう堪らない。
これぐらいなら良いだろう、という気持ちで唇をつけようとした瞬間……。
「ぅい?!」
ぐきっと首が後ろに傾ぎ、ランスはハッと我に返る。
「ランスロット様、先程も、言いました、が、信用を、裏切らないで、下さい、ませね」
ランスの髪をわし掴みにしたノアは、首をへし折る勢いでランスの頭をギリギリと後ろに引く。
「は……い」
従者の冷たいオーラに冷や汗を流しつつ、ランスははっきりと返事をしたのだった。