アイノカタチ-13
暫くするとフワリと身体が浮く感触がして、ノアの魔法がかけられた事が分かった。
「ピィ、ゆっくり離してくれ」
ピィが口を開くとテオの腕からドバッと血が吹き出る。
「ぐ……ぅ」
ゆっくり降下しながら、右手で破けた袖を引き裂いて傷口の上辺りをキツく縛った。
それでも血が溢れる傷口に右手を添えて押さえる。
暗い底に降りながら願う事はひとつ。
(底に何も居ませんように)
ただ、それだけだった。
裂け目内に吹く風に運ばれながら降りた底には、祈りが通じたのか何も居なかった。
ただ暗い暗い世界だけ……テオは傷口を押さえながらぶるっと身体を震わせた。
「寒っ」
出した声が妙に大きく響く。
テオは岩壁にもたれて座り込み、そのままズルズルと崩れた。
暗闇の中、目の前にある赤い実がついた植物をぼんやり眺める。
「ははっ……ベランナ発見……」
暗さに馴れて来た視界いっぱいに広がる赤い実の群生……それはふんわりと光っているように見えた。
パルは空を飛んでいるのではなく、羽を広げて落ちる速度を落としているだけだった。
ただ、重量が重量なのであまり効果は無さそうだ。
ベキベキベキベキ
案の定、パルは木々を薙ぎ倒して着地……というか、地面に激突する。
パルを追いかけて来た大烏クラウディアと、それに乗ったバートンは呆れた顔でパルの上を旋回した。
「……あれ?」
激突の衝撃で我に返ったパルは、地面にめり込んだ首を抜いてキョロキョロする。
「うおぉい、大丈夫かぁ?」
少しホッとしたバートンがクラウディアの上から声をかけた。
「テオのお父さん」
自分はいったい何をしているのだろう?という顔で見上げてきたパルに、バートンは答えてやる。
「いきなり魔物に変わって飛び出した。テオドア達に何かあったか?」
バートンに言われた事で思い出したパルは、ジタバタと暴れた。
「そ、そうっ!何かヤな感じっ!分かんないけどっ……行かなきゃっ」
焦り過ぎて自分の作った窪みから中々抜け出せないパルは、見ていて鈍臭い。
テオ達に魔物の姿を見せたく無かった気持ちが、何となく分かった。