前編-6
（６）
真空の膣内に押し込まれるとぬめりがきゅっと音を立てた。そこから発した熱は股間一帯から体中に伝わっていく。受け止めているだけの知恵子の体にうっすらと汗が滲んできた。
（あんな大きなモノ……結構入ってしまうものだ……）
男に合わせて腰を動かしていた。自然と体が動いてしまう。一気に激しく、と、体が求めても男は一定のリズムを崩さない。もどかしさは快感を携えて体の隅々まで染み込んでいった。
でも、昇っている。燃えながら、確実に昇っている。
「ああ！いい！」
堪らず声を上げてシーツを掴んで上体をくねらせた。
「もう！もう！」
ペニスはさらに大きくなった気がした。
やがて目映い光を遠いところに見つけた。実際は見えないのにそんな錯覚が起った。と、思う間もなく体が浮き上がるほど男の肉が突き上げてきて、
「もう、だめ！」
知恵子はイッた。
予想外の急激な上昇であった。体が硬直と弛緩を繰り返す。制御が利かない。どろどろの快感が纏わりつく。
男はなおもズンズンと突いてくる。
（ああ、いい……）
快感が途切れない。ペニスは前後するだけでなくときおり捻られ、生き物が入っているように感じる。
「イク！」
ふたたび絶頂！
「あううう……」
断末魔のように一声絞り出して、後は何だかわからなくなった。
電話が鳴ったのはぼんやり耳に残っている。とても起きられそうにない。
「出ましょうか？」と男に囁かれてただ頷いた。
（あ……）
抜き去られ、膣がぽっかり空いている感じがした。空気が入ってくる。……
少しの間意識を失っていたようだ。気が付いた時は孔が塞がれた。
「ううーん……」
（ちがう……）
目を開けるともう一人の男であった。
「何？」
「交替しました。あちらの女性のご要望です」
知恵子は受け入れるしかできない。
ペニスが長い！
（子宮に入っている！）
そう感じるほど奥深く突かれた。そのこと自体は気持ちいいわけではないのに、知恵子は男にしがみついた。
先ほどの男とは打って変わって激しい。その力強さに極まった。
「イク！イク！」
のけ反ってから、身震いとともに異様な感覚が下腹部に起こった。
（何？オシッコ？）
思った直後に、あっという間の尿意！
「だめ！」
男をはねのけてペニスが抜けたとたん、噴水のごとく放尿した。
「いや！いや！」
慌てて手をあてがったがどうにも止まらない。硬直した体はポンプとなって勢いをつけた。
（なんで？なんで？）
被った手に温かい尿が当たって音を立てている。踏ん張っても力が入らず、横になって蹲ったままだ。混乱してどうしていいかわからない。
放心しているところへ男がのしかかってきた。
「すてきだ、奥さん。イキそうだ、挿れさせてくれ」
声が上ずって鼻息が荒い。
「だめ！だめです！」
（恥ずかしい！）
尿まみれの股間を見せるわけにはいかない。そのことしか頭になかった。だが昂奮した男は哀願の言葉を連発しながら半ば強引に開脚させてねじ込んできた。
「ああ、だめです……」
されるがままだった。
「おう！」
太い声を知恵子の耳元に吐き出して、男はがくんと体を折った。
しばし重なったまま意識の拡散が治まるのを待った。挿入されたペニスは徐々に芯が抜けていった。
ようやく男が離れ、知恵子は我に返って飛び起きた。
布団と畳の一部が濡れて生臭い臭いを放っている。
「どうしよう……」
羞恥よりも布団をどうしたらいいか、そのことで頭がいっぱいになって、知恵子は男に困惑の目を向けた。
「大丈夫ですよ。乾かしましょう」
どうやって……。うろたえていると、男は洗面所からドライヤーを持ってきた。
「乾きますよ」
男は熱風を布団に当てた。
「由里が戻って来たら……」
「ぼくがここにいる限り入ってこないでしょう？」
（そうか……）
「乾くまでいますから」
「このこと、言わないで」
「言いません」
「恥ずかしい……」
二人とも素裸でいることに気づき、男のペニスが目に入ってうろたえた。
（ビールだ。ビールのせいだ……）
確かに飲み過ぎたと思いながら、失禁したショックを解消することにはならなかった。
ドアがノックされて知恵子は飛び上がって浴衣を羽織った。
「もういいわ。行って」
「でもまだ濡れてますよ」
「とても無理だわ。ビールをこぼしたことにするから」
アルコール臭が漂っていたので咄嗟に思いついたことだった。知恵子はコップに残っていたビールを布団と畳に撒き散らすと、
「いま開ける！」
ドアに向かって声をかけた。
「早く行ってください」
醜態をみせてしまった男といることが耐えられなくなっていた。
男は浴衣を羽織りながら一瞬薄笑いを浮かべて軽く頭を下げた。