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密約旅行
【熟女/人妻 官能小説】

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前編-3

(3)


 紅葉シーズンも終わりかけた頃、待ちに待った由里からの電話があった。しかし話を聞きながら、返事も疎かになっていくほど気持ちが萎えていった。

 不倫相手がどんな相手なのか。互いに知らないことになっている。知らせないし、知ろうとすることもいけない。それがルールだと初めに聞かされた。ルールといえば、他にもある。行き帰りでは絶対に相手の二人と会話を交わさない。どんなことがあっても個人的に連絡は取り合わない。そしてホテルで会った時、気が乗らなければ女の側にのみ拒絶の選択権があるというものである。だから安心して楽しめるのである。ところが今回は承知しておいてもらいたいという。

「六十八歳の人なんだって」
「えっ?……」
知恵子は言葉に詰まった後、咄嗟に、
「いやだ、あたし、いや」
すぐに断った。胸弾ませて楽しみにいくのに老人相手だなんて。自分の父親と同じ齢である。
「その気になれないわ。せっかくだけど……」
由里はその返事を予期していたようで、
「そうよねえ……」
同調をみせながら、しかし、知恵子の気持ちを解きほぐすように話し始めた。

 相手の二人は境遇がよく似ていて、齢も同じで会社を経営していること。奥さんがすでに他界していること。そしてとても紳士なのだと貴恵が言っていたと説明した。貴恵とは発案者の由里の友人である。

「でも、お爺さんじゃない」
「そうなんだけど、あちらもそのことを気にしているらしくて、相手が納得してくれれば行くって言ってるらしいの。つまりOKが前提ってこと」
だから今回だけ年齢を知らせてきたのだという。
「わからないで行って、向こうで知るよりいいでしょう?」
「そうだけど……」

 彼女の説明は説得の調子に変わってきた。
「もし付き合ってくれたらお小遣いくれるんですって」
そう言われても気持ちは揺るがなかったが、さもしいことに金額を聞いて心が動いた。
「十万ですって」
「!……」
「それにツアー代も持ってくれるんだから」
「十万……ほんとに?」
「ほんとよ。実は貴恵が行くつもりでいたらしいんだけど、都合が悪くなっちゃって、それで回ってきた話なのよ」

 十万円!……それは迷いが生じる金額だった。
「でも、そんなに払うんだったら、いくらでも遊べるんじゃないの?」
「魅力がちがうんだって。商売の女とは。それにーー」
二人とも齢が齢なので、役に立たないかもしれない。その時はそっと抱いてくれればいいと言っているらしい。
「何だか介護するみたい」
「そんな感じ。でも十万よ」
「変態じゃないんでしょうね」
「大丈夫よ。貴恵が言うんだもの。たぶん簡単なお相手ってところよ。それにあたし、知恵としたくなっちゃってるの。だから行こう」
(由里も同じだったのか)
 知恵子も由里と抱き合いたいと思っていたのであった。

 金の重みに由里の肉体が加わって表向きはしぶしぶ了承した。
割り切って考えれば十万という金と由里とのめくるめくセックスは十分な価値を持っている。それに、もしルール通りに参加していたら、現地でショックを受けた上に十万円もないのだ。
(割のいいアルバイト……)
そう思うことにした。

 とはいえ、前回のように期待に胸が膨らむことがなかったのは仕方のないことだった。あの時は見ず知らずの男とその行為を想像するだけで頭がいっぱいだった。
(でも、あたしって意外と大胆だわ……)
自分ではごく平凡な女、妻、母親だと思っている。由里に誘われるまで浮気など考えたこともなかった。それが一度経験したことで次の男を受け入れることに特に抵抗がないのは自分でも信じられなかった。他人が舐め、貫いたところに何も知らない夫が埋め込んで快感に喘いでいても罪悪感がわいてこない。一緒になって腰を使っている。
(ちゃんと家族は愛してるんだもの……)
そう思う時、さすがに一抹の後ろめたさはあった。

 今度のコースは新幹線とバスを併用する会津方面のツアーだった。東京駅、上野、大宮、都合のいい所から乗車して、新白河からはバスの旅になる。
 知恵子たちは上野から乗ったが、彼らがどこから乗るのかはわからない。
(どんな相手だろう……)
つい気になってしまうが、バスに比べて車内は広いし、一般客も混じっているので見極めは難しい。
(意識しないほうが気が楽だわ……)
相手が年寄りだという気の重さもあって、知恵子は由里と観光気分に浸ることに気持ちを傾けようと考えた。由里も『招待旅行』の感覚でいるようだった。出発早々から缶ビールを飲み始めた。

「ホテルは五色沼のすぐ近くだって。着いたら少し歩いてみようか」
「いいわね。ちょっと寒いかもしれないけど」
『不倫旅行』だというのにまるで熱っぽさがない。
「喜多方でラーメン食べようよ」
知恵子も合わせて言いながら、由里と過ごすことを思い描いていた。

 新白河で下車すると初めて参加者全員が添乗員の周りに集められた。
「これからのコースのご案内をいたします」
由里と知恵子は後方で説明を聞きながら、それとなく『相手』を探した。
(たぶん、この二人……)
四十人ほどの参加者だから見渡せばだいたいわかる。
 無言で由里と顔を合わせると彼女は苦笑気味の口元をみせた。
 二人ともジャケットにきちんと折り目のついたスラックス姿でボストンバッグを提げている。年相応のカジュアルウェアといった格好だ。
 一人はやせ形で、まだ豊かなロマンスグレー。もう一人は太って頭頂部が禿げている。(どうせなら痩せたほうがいいな……)
深い意味はなく、誰でも思う見た目の印象である。どちらに当たるかはその時の流れ。交代して二人とすることもあると由里が言ったことがある。
 その時、男たちが振り向いたので知恵子は視線を逸らせた。向こうも『相手』を認識したようだった。 

 


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