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スプーン・ポジション
【女性向け 官能小説】

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メール調教-4


月曜の朝、私はいつもより少し早めに会社に着いていた。

ハタチやそこらの娘でもあるまいし、セックスしたからといってあからさまに顔に出してしまうようなことはないと自分では思っている。

しかし、一輝のほうはそういうことを周りに悟られても構わないと思っているような節があるから、平気で親密な態度をとってくるかもしれない。


できれば早めに一輝に会って、そういうそぶりはお互い極力見せないように頼んでおきたかった。


課のみんなにバレてしまうのはまずい。
──私にとっても、一輝にとっても。


もちろん今までもそういう疑惑は持たれていたかもしれないが、今まではその「事実」がなかったからそれでもよかったのだ。

だけど今は違う。
一輝と私は、実際に不倫関係が出来てしまっている。
疑われ、追求されれば言い逃れは出来ない──。


ソワソワとしながらシステム推進課の扉を開いた私だったが、フロアに足を踏み入れた瞬間、そんな心配などどうでもよくなってしまった。

いや正確に言えば──予想もしていなかった光景を突然目の当たりにして、頭が真っ白になってしまったのだ。

フロア内のデスクの配置が、先週とすっかり変わってしまっている。

唯一変わっていないのはフロアの一番奥にある一輝のデスクの場所だけで、あとはほぼ全てが変わってしまっていた。

これまではスタッフ同士が互いに向かい合うように列を作りデスクを並べていたのだが、今はちょうど学校の教室のように、一輝の机に対して全員が正面から向き合うような形に並べ変えられている。

しかも一輝の真正面の席は私。それが意図的なものかどうかもわからなかったが、自然と顔が赤らみ汗がふきだすのがわかった。

──まさか私と向かい合って仕事がしたいから?

いや、まさかそんな子供じみた理由で一輝がこんな大掛かりなことをするとは考えにくい。けれど───どうしてこのタイミングで?

私がしばらくぼんやりと戸口に突っ立っていると、背後からいきなり誰かにポンと背中を叩かれた。

「天野先輩!おはようございます」

振り返ると、そこにはやけにご機嫌な笑みを浮かべた長沢まりかが小首を傾げて立っていた。



「な……長沢……」


こんな不自然なデスクの並び方を見たら、勘のいいまりかなら私たちの関係にだって気付きかねない。

──どう言って誤魔化そうか。

必死で上手い言い逃れを探していると、意外なことにまりかのほうからこんなことを言ってきた。

「突然の席替え、なかなかのサプライズだったでしょう?私の席、先輩の隣ですよ」

「……えっ?」

一瞬長沢の言っている意味がわからずに、頭が混乱する。

「あ、突然すぎてびっくりしちゃいました?」

小馬鹿にしたようなその半笑いの表情に、イラッと神経が逆立つのを感じた。

「あ……あなた、このこと知ってたの?」

「知ってたもなにも、私と課長がやったんですもん」

「──は?どういうこと?」

「土曜日の朝、課長から急に電話があったんです。オフィスのレイアウト変えるから手伝いに来いって」

「か……えと……き……北原課長から?」

「そうですよ。それぞれのパソコンの移動と膨大な設定変更で、結局昨日の夜中までかかっちゃいました」


「二日間……課長と二人で?」


デスクの並びそのものよりも、休日のひとけのないオフィスで、一輝がまりかと二日間も過ごしたということが妙にひっかかった。


フロアのレイアウト変更ならば私にだって手伝える。
いや、私のほうが手際良くやる自信があるし、一輝だってそれくらいわかっているはずだ。

それなのにどうしてわざわざまりかを呼び出したのだろう。


しかもあの長沢まりかが休日出勤だなんて──。

これを頼んだのがもし私だったら、まりかはのらりくらりとたくさん言い訳をしながら絶対に出勤して来ないだろう。

そう思ったら無性にイライラした。


「さ、さ、先輩。新しい席へどうぞ」

まりかがいやにウキウキした口調で私の背中を押す。

よく考えてみれば、まりかが私の隣ということは、まりかの席も一輝の正面だということなのだ。

まさか……この二日間のうちに、まりかと一輝の間に何かあったのだろうか。

いや……私とあんなことになったばかりのタイミングで、それはありえないはずだ。


──だけど……冷静に考えてみれば、そもそも一輝には妻がいて、その前提の上で私とも関係を持ったのだ。

ならば、長沢ともそういう関係になっても別に不思議ではない。

いや、違う。私は一輝にとって、みんなとは違う特別な存在のはず。


──そうでしょう?一輝……。




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