誠意のカタチ-8
「何よー、あたし隆司がいるのよ?」
クスクス笑いながら、絹子はあたしの背中をポンポン叩いた。
すかさず上座の方から、
「駿河ー、彼女が浮気してるぞ」
と、社員の沼津さんのからかう声が聞こえてくるけど、
「女が相手じゃ浮気になんないっすよ」
と、翔平はグイッとまたビールを口に含んで笑うだけ。
でも、絹子の肩越しに見えた翔平の顔は、なんだかとても嬉しそうにあたしを見つめていて、あたしもまた涙まじりになりつつ笑い返した。
……あたしもスウィングを卒業しよう。
短い間だったけど、素敵な仲間ばかりだけど、逃げと取られるかもしれないけど。
きっとあたしが心から笑えるようになるのを、翔平や絹子が望んでくれるなら。
あたしは、絹子からそっと身体を離すと、ゆっくり立ち上がった。
急だけど、スウィングのみんながほとんど揃ってるし、あたしの決意表明をするにはちょうどいい。
自然とお座敷が静まっていく中で、あたしはみんなの顔を見回した。
早番のみんな。遅番責任者の福沼さんや学生アルバイトのみんな。カフェにはあまり似合わない、強面社員の沼津さん。もやしっこで頼りないけど、ホントは誰よりも頼りになる店長。
……そして、一足先にスウィングを卒業する、大好きなあたしの彼氏。
名残惜しい気持ちはあるけど、あたし、決めました。
そして、あたしはおもむろに口を開いた、その時――。
スッ。
お座敷の襖が開いて、他のお客さんの話し声が、静かになったお座敷に飛び込んで来た。
自然とみんなの視線はあたしから襖の向こうへと移り、誰もが息を呑み込んだ。
それもそのはず、送別会もドタキャン扱いになっていた彼女が、里穂ちゃんが、目を真っ赤にしながら一直線にあたしを睨んでいたから。
サッと血の気が引いていくあたしに向かって、彼女はまっすぐ歩いてきた。