誠意のカタチ-7
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「まあ、松本も来づらいかもしれないけど、ホントはアイツが現実を受け入れなきゃいけないんだよね。どう考えたってあんたと駿河が好き合ってるのは誰の目にも明らかだったんだし」
絹子が、上座でゲラゲラ笑ってる男性軍の中の翔平をチラ見しながら言った。
「…………」
「正直、あんたに対する松本のあの態度、見ててあたしも我慢の限界だったのよ。それに駿河にも言われたよ。『小夜に辞めるよう説得してやって』って」
「え?」
ビールの気泡をボンヤリ眺めてたあたしは、その言葉に驚いて顔を上げた。
「駿河、言ってたよ。『俺が辞めろって言えば言うほど小夜は意地張ってバイト続けようとするから。無理し過ぎて最近飯もあんま食わなくて心配だ』ってさ」
いつもの絹子なら冷やかすような小憎たらしい笑みを見せるんだけど、この時ばかりは心配そうにドングリみたいなコロンとした丸い瞳をゆらりとこちらに向けてきた。
それほど今の状況は、深刻なのか。
「……彼氏にそこまで心配させてまで、松本に義理立てしなきゃいけないもんなの? あんたが無理してる姿を見てるのって相当辛いんだと思うよ」
絹子に促されるように視線を動かせば、アルコールのせいでほんのり顔を赤くした翔平の笑顔。
そう言えばこんなに屈託のない笑顔なんて久しぶりに見るかも。
一緒にいて、確かに幸せいっぱいなんだけど、里穂ちゃんのことがふとひっかかってしまうことがあって、それを敏感に察知する翔平とは、ぎこちなくなるときがある。
あたしだけの問題だと思ってたけど、翔平はそれを自分のことのように心を痛めていたんだと思うと、目の奥がチリリと熱くなった。
「小夜、あんたは充分頑張ったよ」
「絹子……」
「でも、世の中にはどうにもならないことだってある。駿河は一人しかいないし、小夜と好き合ってるなら、身を退くべきなのは松本なんだよ。小夜がどうこうすべき問題じゃない、松本が自分で乗り越える問題なんだよ」
絹子の言葉が、棘を取り除いてくれるようで、泣きそうになる。
「あたし……」
「店なら大丈夫だよ。店長がまた労働時間オーバーして小夜の分まで働けばいいんだし、こないだ二人くらい面接してたみたいだし」
ポン、と肩を叩いてシシシと意地悪く笑う絹子に、あたしも引きつりながら口角をゆっくり上げた。
「だから、小夜。あんたは何も考えないで駿河と幸せになればいいのよ。あんたはバカのくせに、こういう時ばかり人のこと気にするん……」
あたしは、絹子が全てを言い終わらない内に彼女の小さい身体を抱き締めていた。