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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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誠意のカタチ-5

そんな彼女を気にしつつも、身体を起こすとズキッと背中が痛む。


その鈍い痛みに顔をしかめながら背中をさすっていたら、頭上から棘のある声が降ってきた。


「……バッカみたい」


「え?」


「バカって言ったんですよ! 何いい人ぶって助けてんですか! 助けてなんて一言も言ってないのに」


「あ、えっと……何か勝手に手が出てたんだよね。里穂ちゃんは怪我なかった?」


こういう場面でヘラヘラ笑うのは悪い癖なんだと我ながら思う。


耳の後ろをポリポリ掻いているあたしに、彼女は舌打ちを一つ。


「そういうとこが鼻につくんですよ! ホントは怪我すればいいって思ってるくせに……」


……そこまで言うかな。


大きな目をユラユラ潤ませながら捲し立てる彼女に、ムカつくものの、なにも言い返せずに唇を噛むあたし。


噛み締める力がさらに強くなり、ほんのり鉄の味がした。


同時に、散々無視されたり睨まれたりした時のことが頭に次々浮かび上がる。


もう、我慢しなくていいんじゃない?


何かがプツンと切れたあたしは、スクッと立ち上がると里穂ちゃんと対峙した。


あたしは160センチと標準的な身長で、決して大きくはないんだけど、150センチくらいの里穂ちゃんと向き合えば自然と見下ろす形になる。


「な、何ですか」


真顔で向き直ったあたしに少し怯んだ彼女は、多少どもりつつも、睨み返した。


もう、ビシッと言ってやる!


そう決めて、口を開きかけたものの。


ケンカなんてほとんどしたことないあたしは、こういう場面で何て言えばいいのか、頭が真っ白になってしまった。


平和主義者のあたしは、揉め事が大嫌いでケンカや争い事とはほぼ縁のない世界で生きてきた。


違う見方をすれば、そこまで人と深くコミュニケーションをとってこなかったから、本音でぶつかる機会がなかったのだ。


のらりくらりで面倒ごとに関わる前に、バカの振りして逃げてきたあたしにとって、本人を目の前にして自分の怒りをぶつけるなんて、ハードルが高過ぎる。


何より、里穂ちゃんをこうさせたのはあたしのせいだっていう負い目があるから、余計にだ。










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