誠意のカタチ-3
あたしも散々悩んだ。
好きな人と想いが通じ合えたのはこの上ない喜びだけど、里穂ちゃんのことを考えると、手放しで喜ぶわけにはいかない。
翔平と付き合うことになって、あたしは一番最初に里穂ちゃんに全てを話し、自分の気持ちに嘘を吐いた結果、深く傷付けてしまったことを正直に謝った。
それが、せめてもの誠意だと思ったから。
でも、彼女は目に涙をいっぱい溜めてあたしを睨み付け、「嘘つき」と吐き捨てるように言った。
翔平の気持ちを知っていた里穂ちゃんなら、納得してくれるんじゃないかって、どこかで甘く考えていたあたしの思いはいとも容易く崩れ落ちた。
謝罪なんて、相手を思っての行為じゃない、自分がスッキリするための手段だと罵られ、あたしはぐうの音も出なかった。
あたしの誠意は綺麗事に過ぎなかったのだ。
俯いて黙り込むあたしに、里穂ちゃんは「小夜さんは辞めないであたしのそばにいて、いつまでも罪悪感にとらわれていて下さい」と、そう言った。
正直、一番堪える結末だった。
支えとなるはずの翔平は退職が確定してしまったし、彼の抜けた穴を埋めるべく固定シフトが大幅に変更になってしまって、新シフトは里穂ちゃんとほとんど被ってしまうこととなり、彼女の思惑通り、常に里穂ちゃんに罪の意識を感じながら働くこととなったのだから。
嫌悪感を露にされ、無視されながら働くのは、想像以上にキツくて、バイトが始まる前なんかは胃が痛くてたまらなかった。
見かねた翔平は、「無理しないで辞めろ」って言ってくれたけど、全ては自分の優柔不断さが招いた結果だから、と変に負けず嫌いなあたしは、辞めると口にしないで、ただひたすら頑張って働き続けた。
そんな針のむしろみたいな状態が続いてしばらく経った頃のことを思い出しながら、ビールを一口喉に流し込んだ。
◇
ちょうどトンボが空を飛ぶ頃。
スタッフルームで休憩時間を過ごしていたら、里穂ちゃんがコーヒー豆の補充に部屋に入ってきた。
まるであたしなんていないかのように振る舞う彼女。
無視には慣れたつもりでも、同じ空間に二人っきりになるとまたあの胃の痛みがこみ上げてくる。
痛むお腹をさすっていると、彼女はあたしの隣のキャスター付きの椅子を引っ張り出してきた。
どうやらそれを使って棚からコーヒー豆の入った段ボールを取ろうとしてるらしい。
キャスターがついていない椅子に座っていたあたしは、慌てて立ち上がって棚の下にそれを置いた。